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スパイ特集―スパイを知るならこれを読め!個人的選書3冊

どうも、TRYDERです。

 

私は今、スパイものにハマっていまして、『ミュンヘン』、『ブリッジ・オブ・スパイ』、『フェア・ゲーム』など様々なスパイ映画を観ています。

 

更に旬なことに、2016年10月3日には『ジェイソン・ボーン』という映画が公開されました。

この映画はボーン三部作と呼ばれる一連の作品の続編となる新作。このボーン三部作の主人公であるジェイソン・ボーンは記憶喪失の元CIA工作員でフラッシュバックする記憶を元に、巻き込まれる陰謀の真相を辿っていくというスパイ・スリラー作品です。

 

これら上述のスパイ作品を観てからスパイという職業自体に興味が湧きました。いくつか本を読みましたので、今回はスパイに関する本を3冊紹介したいと思います。

 

1.標的は11人―モサド暗殺チームの記録

標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録 (新潮文庫)

この本は映画『ミュンヘン』の原作になったノンフィクション小説です。

あらすじを抜粋。

1972年9月、PLOパレスチナ解放機構)の過激派「黒い九月」がミュンヘン五輪選手村を襲撃し、イスラエル選手団の一部を虐殺した。

激怒したイスラエルの秘密情報機関モサドは暗殺チームを編成し、アラブ・テロリスト指導部の11人を次々に消して行く……今は本名を変えて米国に住む、元暗殺隊長の告白に基づく凄絶な復讐の記録。

この暗殺部隊を指揮するのが主人公のアフナー。アフナーはコマンド(特殊部隊)出身の生粋のイスラエル人。転職に失敗し、勧誘されていたスパイの道へと足を踏み入れて、11人の暗殺を指揮することになるというのが序盤のお話です。

 

この本の凄いところは著者のジョージ・ジョナスがあとがきに書いている通り、主人公の肩越しから覗き見ているような視点で書かれているという点。なので、暗殺までの計画、武器の調達、作戦遂行の一連の流れ、そして暗殺される対象者の様子までもが事細かに描写されています。

 

監視の仕方(経験を積んだ警戒心の強い対象には十数人の交替要員を使ってリレー競走のように尾行)や暗殺にかかったコスト(一番最初に殺されるズワイテル暗殺にかかった費用は三十五万ドル)など具体的な例が挙げられることで、一般人でも暗殺の困難さを理解することが出来、こんな困難な暗殺を11人分こなすという意味には相当の国家的意思・思想が関わっていることが伝わることでしょう。

 

これはただの実録スパイ小説では無く、イスラエル-パレスチナ問題における理解イスラエル文化の理解に繋がり、時事問題の把握に一助となる良書ですので、強くオススメします。この一冊だけでも是非読んで欲しいです。

 

2.シャンペン・スパイ―〈モサドの星〉の回想

シャンペン・スパイ (ハヤカワ文庫 NF (116))

まずはあらすじ

超一流の馬の育種家にして典型的なゲルマン人、元SSの将校で洗練された大金持ち、おまけに熱烈なアラブびいき……エジプト社交界の寵児といわれた男は、実はイスラエル情報部の首席工作員だった。彼は優雅な生活の一方で、親しくなったエジプトの閣僚や将軍たちから聞き出した機密をせっせと本国に送り、第三次中東戦争イスラエルの勝利に導いたのだ。

 

「標的は11人」で登場するアフナーは監視や暗殺などを請け負う秘密工作員特殊工作員だったのに対して、著者にして元スパイのウォルフガング・ロッツは敵国で情報収集を行う駐在工作員

 

このシャンペン・スパイでは「元ドイツ軍将校の調教師」として乗馬クラブに取り入り、妻のウォルトロードと共に軍人や科学者とのパーティに繰り出して兵器開発や軍事作戦等の情報収集に務めるロッツの様子が自伝で語られるため、書かれていることの信憑性についても高いです。これは本書出版の後、モサドと手切れになってしまったという関係性からも言えます。 

 

本書の見どころはなんと言っても、妻のウォルトロード。彼女は一般人ですが、夫のスパイ業の手伝いを見事にこなしてみせます。いや、むしろ居なかったらここまで食い込むことは出来なかったでしょう。本書はスパイ夫妻の物語なのです。

 

そして、最後はスパイ行為が露見して逮捕されるのですが、その裁判の時でさえ嘘八百で切り抜けてみせる場面も必見、スパイの身の処し方をつぶさに眺めることが出来るでしょう。

 

「標的は11人」とは異なるタイプのスパイですが、スパイにも色々な種類があって、彼が如何にしてイスラエルを勝利に導いたのかという立ち回りの秘密を知ることが出来るので、これも是非オススメします。会話のテクは見事で、こんな頭の回転が出来る人間になりたかったと思わせられることでしょう。

 

 

3.スパイのためのハンドブック

スパイのためのハンドブック (ハヤカワ文庫 NF 79)

 あらすじ、というか紹介文抜粋。

情報部との接触、偽装や尾行、観察の仕方、情報の収集、暗号の解読、金銭や異性関係が引き起こすトラブルとのつきあいかた、さらには引退後の生活法まで――(中略)豊富な現場の経験をもとに、洒落たユーモアを交えて軽妙に語る恰好のスパイ入門書。

 

前書「シャンペン・スパイ」の著者、ウォルフガング・ロッツが書いた2冊目。スパイという職業を知るならばこの本が絶好の入門書。あらすじに書いてある通り、我々のような一般人が知りたいスパイの実像について、ハンドブックというだけに、浅すぎず深すぎずと言った塩梅で書かれています。

 

スパイの性格適性、研修、経歴詐称、尾行、給与、取調、収監など、スパイが遭遇する場面における身の処し方が克明に記録されているので、スパイ小説を書こうと思っている人などはこの本を参考にすればかなりリアリティのある本に仕上がるのではないしょうか。

 

著者の実体験についての自伝小説と、それに付随するスパイ知識に関する随筆文から成る構成で、200ページ程度なので軽く知識をかじりたい人でもすぐ読める厚さというのがポイント。実生活で使えるほどのノウハウはありませんが、「スパイってこういう職業なんだな」と捉えたいならばこの本だとオススメできます。

 

 

あとがき

今回、イスラエルの秘密情報機関モサド関連ばかりの書籍紹介になってしまったのは3つ理由があります。

一番最初に目についた「標的は11人」から関連書籍を辿っていったということが1つ。

スパイ活動に関してリアルで実体験に基いているということが2つ。そして、比較的現代に近い40年程前の出来事だということが3つです。

 

スパイ活動の中でもとりわけセンセーショナルな暗殺は今でも起きている事象と言って、驚く人は少なくありません。ロシアではネムツォフ、リトビネンコ、ポリトコフスカヤなどが殺されました。放射性物質による特殊な毒殺や、犯行の用意周到さ、そして彼らが反体制派であったことからもロシア当局による暗殺ではないかという疑惑が上がっています。

 

その他にもスノーデンの暴露によって明るみに出た数々の諜報活動など、スパイというのは決して絵空事ではないのです。

 

華麗で人を魅了するエンターテインメントとしてのスパイと、幸福な末路を迎えることが少ない実際のスパイとのギャップはおそらく誰が読んでも衝撃を受けるでしょう。この期にこれら3冊を読んで、スパイの世界を覗き見ることをしてみてはいかがでしょうか?