ゲームの発売日買いがリスクになってきた
お久しぶりです。TRYDERです。
モチベやら私生活やらの影響で4ヶ月ぶりの更新です。
さて、Steamのおかげで個人開発のゲームが世界中のゲーマーに届けられる時代。ゲームに溢れるいい時代ですよね。ですが、最近楽しみにしていたタイトルを発売日買いするという行為がリスクになってきました。
というのも、発売日から1ヶ月後に30%OFFセールに…なんてことは最近ではザラ。要は発売から間もなくディスカウントが為され、発売日に購入したゲーマーが不利益を被るという現象が多発しているんですね。
▲Steamセールの際によく用いられるValve社 業務執行取締役ゲイブ・ニューウェルのミーム画像
今回の記事では発売直後セール事案を紹介し、セールの狙いとセールがもたらす影響について持論を述べてみたいと思います。
『Fallout 76』
『Fallout 76』は11月14日にリリースされ、11月23日のブラックフライデーには33%のセールが実施された。ブラックフライデーという名目ではあるが、今回のケースでは単純に売上本数をブーストしたかったのではないだろうか。
というのも、『Fallout 4』では発売から3ヶ月後に15%のセールが行われたのを鑑みると、『Fallout 76』のセール時期と割引率は異例。リリース直後売上本数は前作と比べて大幅に下げている点に注目すると納得がいく。これらに加えてオンライン専用タイトルとなると売上本数は勿論、プレイヤー数の確保も重要となる。
だが当然、発売日に購入したゲーマーは発売元であるベセスダに抗議をする。そして、それに対する回答がまたまずかった。以下、Redditに掲載されたベセスダの回答をご覧いただきたい。
▲500アトムの補填を受けたu/IzaakGoldbaum氏がreddit上に投稿したベセスダサポートからのメール画面
(訳)
この度はFallout 76のブラックフライデーセールに参加して頂くことが出来ず、誠に申し訳ありませんでした。
また、発売直後の数週間に弊社のゲームをご購入頂き幸甚に存じます。この度、貴アカウントに500アトムを補填させて頂きました。ウェイストランドで再びお目にかかりましょう!
ベセスダは発売日に購入したプレイヤーが不利益を被っていることを認めたにもかかわらず、特定の一個人にしかその補填をしなかったのだ。本事案に加えて、バグ及びゲーム性を含めた批判、特典のバッグが当初は帆布製と宣伝されていたものが無断でナイロン製に変更といった問題も加わり、海外では炎上の真っ最中だ。
『CoD:BO4』
『CoD:BO4』は10月12日にリリースし、1か月半後の11月21日よりブラックフライデーセールを行った。割引率はPC版が20%、PS4では最大30%、そして12月7日~1月7日までゾンビモードを除いたものを「バトル版」として25%OFFで発売している。
『CoD:BO4』は近年のCoDタイトルに対する不信感を拭い去ったタイトルであり、発売から3日以内に5億ドルもの売上を達成した。上掲したゲームと異なり、売れているタイトルをセールする必要はないのかもしれない。しかし、『CoD:BO4』もオンライン専用タイトルであることを鑑みると狙いが見えてくる。
CoD:BO4の場合、コミュニティが形成されるようなコンセプトの下で、リプレイ性の高いゲームデザインを行ったそうだ。とすれば、プレイヤー数が軽視されていいわけがない。また、本作の目玉である「BLACKOUTモード」はいわゆる“バトルロイヤル”ルールであるが、競合タイトルの『PUBG』『Fortnite』よりも価格が高いという弱点もある。この観点からも、購入障壁を下げて初期の段階からプレイヤー数を確保する狙いが見受けられる。こうしたセールでプレイヤー数の確保を行うことで、コミュニティを維持し、ゲーム寿命を伸ばし、長く収益を挙げようとしているのだろう。
『アサシンクリード:オデッセイ』
『アサシンクリード オデッセイ』は10月5日にリリース、1ヶ月半後の11月18日よりUbisoftのプラットフォームであるUplay上で33%OFFセール(Uplayのクーポンを使用すると55%OFF)を行った。尚、売上は好調で前作の『アサシンクリードオリジン』をも上回る売上を記録(ソース:AUTOMATON)している。売上が好調かつ『CoD:BO4』のようにオンライン専用タイトルではない本作をセールする理由は、純粋に年末商戦に向けたものであろう。
前作『アサシンクリード オリジン』のセールが行われたのは発売から5ヶ月後であり、しかもこの時もブラックフライデーである。
また、上掲ソース記事内にあるように前作『アサシンクリード オリジン』は2017年第3四半期の時点で前々作『アサシンクリード シンジケート』の2倍売れており、それよりもさらに売れている『アサシンクリード オデッセイ』をセールする理由を考えると年末商戦が順当と思われる。
Ubiの決算を見ても、四半期ごとのPCゲーム売上比率は例年15%~20%前後を推移しており、計画的な商業上の戦略であることは明らかだろう。
▲Ubisoft発表の2018 Annual Report(年次報告書)より
▲Ubisoft発表のFIRST-HALF 2018-19 SALES AND EARNINGS FIGURES(2018-2019年度中間決算報告書)より
※左から:2018-19年度第二四半期、2017-18年度第二四半期、2018-19年度上期、2017-18年度上期)
『Battlefield Ⅴ』
『BF5』は11月20日にリリースされ、2週間後の12月6日には50%OFFセール(BF1・BF4購入者が対象)が、12月8日にはPC版で33%OFFのセールをスタートした。
こちらは記事執筆時点(2018年12月10日)では判断が難しい。UKチャートでは初週物理メディア売上がBF1と比べ63%に留まるという記事がある一方、日本の4Gamer.netによる週間売上を見ると前作『BF1』に比べ3000本の減と差が少ないこと、フランスでの初週売上では1位を獲得したという記事もあることから、単純に年末商戦なのか売上本数ブーストなのかを断じるのは早計だろう。
発売日買いのリスクが高まっている
インディーの存在感も増し、AAAタイトルとて初動の波に乗れねば存在感は損なわれていく。市場での存在感を示す手段として、加えて上述したような売上・プレイヤー数・プラットフォーム争いと様々な狙いの下で行われるセール合戦は目まぐるしくなってきた。
一方、こうも早い段階での値下げをされると一拍置いて買う方が賢いような気すらしてくる。こうなると、2012年にEAのエグゼクティブである故・David DeMartini氏がSteamを批判する際に苦し紛れに捻りだした「過剰なセールはIPの価値を落とす」という言が現実味を帯びてくるわけだ。
こういった売り方はビッグパブリッシャーの寡占化を一層招きかねない。例えば、Steamのマージン率を考慮した場合、Steamとパブリッシャーの取り分は3:7となる。パブリッシャーは7の取り分を減らしてセールする(Steam主導のセールの場合、Steam側の取り分を減らして行われる場合もある)わけだが、7の中から更にマーケティングや諸費用が差し引かれる。となると、最終的な取り分はわずかなものであり、発売直後に30%超のセールを行えるのは、資金力・マーケティング規模・販売市場規模あってのものだろう。
いや、最近の大手パブリッシャーの脱Steamが加速している現状(Bethesda・Epic gamesなど)を鑑みるに大手ですらキツいのだ。ましてや中小デベロッパー発タイトルの場合、開発タイトルへの依存度が高くこういったセールが難しい。実際、日本産ゲームでこういった光景はなかなか見かけない。
また、このようなセールが常態化すれば、発売日買いを見送るゲーマーが増えるかもしれない。そうなれば、パブリッシャーにとっても不都合なことが多いだろう。初週売上はそのタイトルの持つ勢いともみなされるし、注目度も集めることによって更なる売上の期待が見込めるだけに重要な指標だ。開発会社にとっても投下資本の回収が遅れるのは好ましくない。
発売日購入者のプレミアム感を損なわないためには
「あそこの会社はどうせセールするし二か月くらい様子見でええやろ」と言われないためにはどうすればいいのだろう。ここで考えるべきはセール価格との差を埋めるプレミアムの付加方法だ。
1.価格差補填
『Fallout 76』のように中途半端な補填だと逆に反発を招きかねない。とすれば、価格差分をゲーム内アイテムもしくは価格相当分のクーポン等で補填する方法が考えられる。
2.早期購入特典
予約数の確保や発売初期段階の購入数のブーストにむけて、既に普及しているお馴染みの方法だ。ただ、早期購入特典で惹きつけるには特典そのものに相当のプレミアムを乗せる必要があり、それがゲーム内における有利不利に直結するようだと新たな問題に発展しかねない点に注意が必要だ。
3.セールをしない期間の明記
この方策は販売側のリスクを鑑みても現実的ではないが、方法の一つとして挙げてみた。ただ副次効果もあり、セールをしない方針を掲げることで一種のブランド価値を付与する効果はある。例えば、長らくセールを行わなかった『PUBG』然り、明確にセールを行わないとする『Rimworld』然りである。
と、挙げてはみたもののその実どれも現実的ではない。会社の論理からいけば、競合相手がセールを行っている中で傍観しているわけにもいかないし、売れないゲームをセールせずに放置して機会損失を被るわけにもいかない。
ゲーマーとして講じるべきは、購入の機を見計らうか欲望に従って発売日買いするかしかない。結局、消費者行動が形成する市場の矯正力に従って、売り方も変わっていくだろうという元も子もない結論で終わりたいと思う。