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オープンワールドRPG―成功の法則

どうも、TRYDERです。

少々扇情的なタイトルですが、今回は良いオープンワールドRPGが持っている要素について持論を述べたいと思います。

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オープンワールドとされる代表的なゲームタイトル

一ヶ月前『DOOM』で有名なidsoftware開発の『RAGE』というゲームで遊んでいました。

Rage 【CEROレーティング「Z」】 - PS3

Rage 【CEROレーティング「Z」】 - PS3

 

 ところが、どうものめり込めない自分がおり、率直に言ってダメなタイプのオープンワールドゲームだと感じました。オープンワールドゲームを遊んでいると、「これはダメなタイプ。これは良いタイプ」と感じることはあれど、自分でもどうしてそう思うのか基準が不明瞭。

 

なので、今回は偉大な“世界の創造主”の知恵を拝借しながら、自分なりの判断基準を纏めていこうと思います。 

 

オープンワールドという言葉の曖昧性

オープンワールドという言葉は曖昧だ。それ故、ゲーマーそれぞれが独自のオープンワールドの定義を持っていて十人十色なのだ。 

例えば、「ロードを一切挟まない広いプレイフィールドを持つゲーム」というふわっとした定義もあれば、「ノンリニア*1」を条件にあげるゲーマーもいる。しかし、いずれにせよ対象範囲が広すぎて、それを普遍的な規範にあてはめようとするためピンと来なくなる。

etc...

ちょっと考えただけでもこれくらい出てきた。実際、思い描いたゲームタイトル毎にオープンワールド判定をしても疑問が尽きることはないだろう。そのくらいゲーマーが使っている「オープンワールド」という用語はふわふわしているものだ。

 

恐らくゲーマーはそんな定義などどうでもよくて、見える景色の全てに行けるのがオープンワールドというざっくりとした認識であろう。ゲーマーの関心は面白いか面白くないかの一点のみだし、娯楽の本質はそこにある。

  

無論、自分もそちらに関心がある。オープンワールドを使ったストーリーテリングには少なからず上手い下手が存在している。本記事ではオープンワールドRPGについて持論を述べてみたい。

 

オープンワールドゲームを選択する意義

ストーリーテリングにおいてプレイヤーに対して最も効果を発揮するのは脚本主導のリニアなテリングである。一方、オープンワールドのテリングは広い世界であっちこっちに違うストーリーが展開されるものだ。言うなれば、リニアなテリングは“一冊の本”であり、オープンワールドのテリングは“図書館での乱読”である。

 

このようにストーリーをプレイヤーに植え付ける点において一歩劣るオープンワールドを選択する理由は何故だろうか? 

当然ながらオープンワールドとは作品世界そのものを創造すること。旧世代のゲームではプレイヤー個々人がテキスト及びドットでは描かれない世界観の隙間を想像で補完していた。しかし、3Dオープンワールドは生活圏により近づいた表現方法であり、例えファンタジックな作品であっても空間の開放性・行動規範・物理法則・生物等のビジュアルは私たちが生きる世界に近似したものを提示する。

▲3Dで世界そのものを構築するオープンワールドゲームの最初期作『シェンムー(1999)』(Game Archive氏の動画)。現代標準のオープンワールドはグラフィック処理能力と記録媒体技術が高まりはじめた1999年前後に生まれた。

一方、アクションゲームにとってもオープンワールドは好都合だ。プレイヤーが試行錯誤して広い空間を活かせるようになれば、より爽快感が増すからである。『Sunset Overdrive』『InFAMOUS Second Son』『Saints Row』のように複数の能力や操作を組み合わせて、縦横無尽に移動することが出来る。『ゼルダの伝説BotW』では空間を利用してプレイヤーが創造性を発揮出来た。

▲ピタロックを使った移動などは広大な空間を有するオープンワールド(オープンエア)ならではだ(Goldfire711氏の動画)。

つまり、オープンワールドの強みとは、現実世界と近似したビジュアルに親近感を持たせ没入を誘いやすい点、プレイヤーの選択を促すクエストやNPCを大量に配置できる機会性、広大な空間による操作圏の広がりにある。これらを前提にすると、オープンワールドを効果的に用いる要素が見えてくる。

▲『ザ・クルー』のアメリカ全土を再現したマップなどは操作圏の広がりの恩恵を最大限に受けている。ドライブという「目的」と広大なマップという「手段」が一致してこその効用だ。

 

 

上手なオープンワールドデザインの共通項

面白いと感じるオープンワールドにはいくつかの共通点がある。具体的に諸要素を見ていこう。

 

 

1.ビジョンを持つ

真・三國無双7』まで作ってきましたが、やはりマンネリ感を感じてきたというのが正直なところです。

(中略)

オープンワールドにすれば、それらのプレイスタイルをすべて受け入れられると考え、オープンワールド化を決断しました。

『真・三國無双8』ディレクター ― 鈴木亮浩

最近、流行っているという理由だけでオープンワールドを選択する制作者は多い。しかし、オープンワールドはマンネリを解消する手段でもないし、一朝一夕で上手くいくジャンルではない。

『Horizon zero dawn』では、積極的に他作品のシステムを取り入れているものの、裏には多大な研究*2が潜んでおり独自のものに昇華させている。

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▲『Horizon zero dawn』の画面。『Farcry』のグラップルをはじめ、『アサシンクリード』のような特定のポイントでインタラクトすると周辺マップ状況が更新されるUbiタワー、『The witcher 3』のように足跡を追跡できるウィッチャーの感覚など、他作品にインスピレーションを受けたようなシステムが散見される。

ゼルダの伝説BotW』の制作チームもプレイヤー視点で“オープンワールド”を分析。制作哲学として確立されていなかったオープンワールドデザインを体系的に研究したことで「CEDEC2017」の最優秀プレゼンにも選ばれた。

 

制作実績のあるUbisoftでさえ、 オープンワールド研究のためだけのスタジオを3500万ドルかけて新設するのだ*3、今や流行り物に乗っかるような動機では成功するはずが無い。

何故、オープンワールドを選ぶのか。アクション然り、RPG然り、ドライビングシム然り、オープンワールドでなければ体験できない強力なビジョンが存在しない限り、予算もリソースも食うオープンワールドを選ぶべきではない。

▲『Sunset Overdrive』ではウォールランやジャンプ出来るオブジェクトを一面に巡らし、プレイヤーが爽快感のあるアクションを絶え間なく行えるようにオープンワールドという形式が取られた。その試みは大成功している。

 

 

2.都市とオープンワールド

都市は密集していて煩雑さの中心点であり、プレイヤーにとってはゲームプレイの震源地でもあります。

skyrim』ワールドアーティスト ― Noah Berry

都市と自然を調和させる達人Noah Berryの言うとおり、オープンワールドにおいて都市は不可欠だ。ドラマの多くは街から生まれる。

 

都市も無く広いだけのフィールドは成功しづらい。低密度のオープンワールドはただ広いのみで移動が億劫なだけであることを留意すべきだ。

フィールドに何もないデザインで上手くハマったのは『ワンダと巨像』。ストーリーもレベルデザインもリニアでオープンワールドとは少し異なるかもしれないが、このゲームが持つ広大なフィールドはオープンワールドのフィールドデザインに通ずるものがある。

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▲リメイク版『ワンダと巨像(2018)』

ひたすらに禁足地を駆け回り、フィールドにはアクティビティどころか人っ子一人いない。むしろアクティビティが配されていたら興ざめで、ただただ自然の中を駆け回るからこそ、ワンダの少女への思いの迫真性や、古えの地に対する畏れを上手く描いている。

 

しかし、こんなものは例外。上田文人じゃない限りプレイヤーを納得させるのは難しい。『真・三國無双8』ではひたすら荒涼な風景が続き、都市では特段のドラマがあるわけでもない。しかも、下手に広くしたが故に大軍勢がひしめき合う無双独特の風景が希釈されている。

上手くオープンワールドを作るにはピラミッド型のデザインが大事だ。ゲームのシンボルとなるような拠点都市をいくつか配し、その回りを村などの小規模な共同体で囲うようにデザインする。出来れば、都市の威光や影響が村落に及んでいるとなお良い。関西と関東は雰囲気が違うように地域性と多様性が演出出来るからだ。

http://img.2game.info/re/l/skyrim/images/mod/10044/1440795708.jpg

▲『Skyrim』マップ。マークのある場所が主要都市。適度な距離感が保たれていることが分かる。(Paper Map with Height インターフェース - Skyrim Mod データベース MOD紹介・まとめサイト)より引用

 

Noah Berry氏は語る。

「農園・開拓地・野営地等の地理的環境は、政治的・社会的目標といった中核を支える都市へと(プレイヤーを)つつがなく導く。その上、都市内外のアート・デザインとともにプレイヤーも変化する」

こういった雰囲気の変遷は“世界”を表現する上で大事なもの。僕が『Horizon Zero Dawn』のフィールドデザインを今一つと思うのはこういったデザインに乏しいからなのである。

 

 

3.練られたサイドクエス

ほとんどの場合、クエストの内容は世界の大きさを決定づけますが、その逆はありません。

『The Witcher 3』レベルデザイナー ― Miles Tost

サイドクエストを軽視……いや、意図して逃避するクリエイターは多い。クリエイターは往々にして都市と都市の間を大したことのないアクティビティ(〇秒以内にチェックポイントを通過しろ、〇秒以内に全員倒せ―のような)で埋めがちだ。こういったアクティビティは一回プレイすれば満腹。見栄え上、都市間の空白地帯をアイコンで埋め尽くす意図の下行われると邪推したくなってしまう。

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▲『MADMAX』のアイコンスパム。黄色いアイコンでは僅かな物資が得られる。赤いアイコンでは“かかし”というポールを車で引き倒すだけの場所。ゲームデザイン的に如何なものか

アクティビティが多いのが悪ではない。例えば、『シェンムー』や『Grand Theft Auto』のようなゲーム内でセカンドライフを過ごすようなデザインとは親和性が高い。しかし、物語主導のゲームだと世界を読解する上で、アクティビティを過多に採用すれば逆に魅力が薄弱なものとなっていく。

▲株をテーマにしたゲームは数あれど、ミニゲームとして株取引が実装されているゲームは『GTA5』くらいではないだろうか

物語主導である場合、作家性のあるサイドクエストを多数用意したい。それがゲーム世界の理解、ひいては奥深さに直結するからだ。例えば、『fallout』『skyrim』でお馴染みのベセスダはシナリオありきでは無くゲーム世界からデザインする。 同シリーズのプロデューサー、トッド・ハワードはこう語る。

そこにいる人々は誰か、どんな集落があるか、どんな派閥があって彼らはどんな目標を持っているのか。個々のクエストやシナリオの大半はこういった議論から生まれますが、世界を走るナラティブラインとは対称的に我々はワールドデザインから始めます。

『Fallout3』『The Elder Scrollsシリーズ』製作総指揮 ― Todd Howard

世界から作ることで、勢力は何故このような建築を行い、この世界で生き残るために何を犠牲にしているのか、その街にはどのような信条が存在するのかといったところまで見えてくるのだという。

▲『fallout3』では原子爆弾の周りに築かれた街「メガトン」が登場する。放射能を崇拝する宗教「チェイルド・オブ・アトム」が登場し、『fallout4』でも波乱を巻き起こす。一つの街からユニークな勢力が生まれることもあるのだ。(DanQ8000氏の動画

一方、『The Witcher 3』は原作ありきの作品。デザイナーは始めに徹底的に原作小説のエッセンスを身体に染み込ませる。ゲラルトが事件に介入する動機と選択肢を考えるにあたり重要なプロセスだからだ。次にどんな物語を描きたいかをデザイナー達から集める。デザイナーが小説や映画等からのインスピレーションを投影していく作家性の問われる作業だ。

ウィッチャーI エルフの血脈 (ハヤカワ文庫FT)

ウィッチャーI エルフの血脈 (ハヤカワ文庫FT)

 

▲『ウィッチャー』シリーズの原作小説

こうして物語をリスト化、魅力的なものを抽出する。その後、クエストとして試験的にゲーム内へ実装。この試験段階でCD Projekt独自のツールを使用することでNPCの行動パターンを伴った簡易的なクエストを実装することが出来るのだ。滞り無く動いたら、メインストーリーのチームへ提示され、加筆・修正が行われる。この過程を経てスタッフ全員が納得するようなサイドクエストだけが実装される。

▲『The Witcher 2』の開発キットであるREDkitの様子からNPC配置やクエスト追加が見て取れる

物語か、世界か。どちらから作るにしてもサイドクエストは作家性がものをいう。サイドクエストの内容に合わせ、ランドマークを設計、NPC等のアート、演出音楽等を行わなければならず一種の総合芸術とも言える。

 

ここまで苦労してサイドクエストを多数用意するのは、RPG的に使いふるされた手法の“おつかい”の作業感を感じさせないため。

根源的にはプレイヤーの労働への対価にアイテムを与えたり、次のゲームメカニクス的に次のレベルへ進ませてくれるワークフローは不可欠であり、要は見せ方なのである。

 

 

4.ディテールにこだわる

ゲームはタイムマシンであるべきです。中世は不確かな作り話で埋め尽くされています。だから正確に描こうと努めました。

ほとんどの映画は間違っています。城内は彩られ、水晶の風見鶏が付いた塔が無数にあるなんてことは無いのです。

最終目標はリアルで気持ちのいい環境を作ることでした。

Kingdom Come: Deliverance』クリエイティブディレクター ― Daniel Vávra

ディテールが練られたゲームが決して良いわけではない。例えば、『FF15』は格好いい形の岩や料理のグラフィックにこだわったものの、労力を費やすべき箇所は別にあった筈だ。

だが、プレイヤーに何をさせたいかというビジョンが明確であれば、そのこだわりは効果的に機能する。 『アサシンクリードオリジンズ』や『Kingdom Come:Deliverance』などは最たる例だ。専門家を用いた徹底的な歴史考証のもとで創造された同作は、タイムマシンの如く当時の空気をそのまま提供してくれる。

Kingdom Come:Deliveranceはチェコの名門マサリク大学の授業に採用されるほど正しい考証のもと制作されている。(チェコの名門マサリク大学が「Kingdom Come: Deliverance」を中世史の授業に使用 « doope! 国内外のゲーム情報サイト

ディテールのこだわりからもたらされる効力は再現性のみならず説得力にまで及ぶ。『The Witcher 3』では、ゲーム内地方ごとにアイルランド訛りやウェールズ訛りに変えて地方性を演出している。また、モデルとなった北欧の植生を研究し、土壌のphによって育つ植物の差をゲーム内へ反映させ、城に用いられる石の種類にまで配慮することでファンタジーでありながら実存しそうだと思わせる世界の構築に成功している。

アイスランドノルウェーを参考にしたスケリッジ諸島(FeuerTin氏の動画

▲実際のノルウェーの自然(Timestorm Films氏の動画

ゲームで旅を感じるというコンセプト(参考ソース)のもと、料理を圧倒的なグラフィックで表現した『FF15』。同じ料理でも、一枚絵ないし簡素なグラフィックで表示する『ゼルダの伝説BotW』『fallout4』『The Wicher 3』。

旅を表現する上でどういう演出が効果的なのかは言うまでもない。

 

 

5.ランドマークの配置

(プレイヤーに対して、能動的にゲームシステムに沿うよう探索をさせる「引力」という概念について)

プレイヤーにとってお得であるがゆえに,そこに向かいたくなってしまう力

ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』ディレクター ― 藤林秀麿

オープンワールドの醍醐味は探索。だが、プレイヤーの意思で世界の隅まで探索させるのは至難の技だ。クエストマーカーで目的地へ誘導するのは簡単だが、それでは強いられた体験になってしまう。プレイヤーが自然な形で世界に関心を持たせるようにするのがランドマークだ。

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▲『fallout4』の画面。左の飛行船を目指すか、真ん中の塔を目指すか、プレイヤーの選択次第である。

ランドマークとは特徴のある場所のことを指す。変わったものがあれば行ってみたくなるのが人の性。興味深いオブジェクトやアートで彩られたランドマークに引き寄せられるとNPCがおり、サイドクエストが待っている。或いは敵拠点でも良い。サイドクエストが寝られたものであるほど、特徴的な敵であるほど、ランドマークの仕掛けが豊富かつ未知の場所であるほど、満足度は相乗的に増していく。 

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▲『fallout4』よりコルベガ工場

fallout』のランドマークはユニークだ。核シェルターという体の社会実験施設「vault」内で、シャーリイ・ジャクスンの「くじ」のように奇妙な実験を見ることができる。同じく『fallout4』の「ダンウィッチボーラー」にはクトゥルフモチーフのホラーが存在していたりとランドマークの特性を活かしたストーリーを展開させると満足感は高い。

▲「Vault11」はシェルター入居者の中から1人生贄を選ぶ社会実験が行われている。生贄をやめれば「Vault」の出口が開く仕組みだが、最後の5人になるまでその選択はなされなかった。こういったブラックユーモアを含んだランドマークの数々も『fallout』の魅力(vault usagi氏の動画

また、ランドマークの魅せ方も欠かせない。

ゼルダの伝説BotW』では塔を目指すようなデザインを行った。そびえ立つ塔を目指す道程に厩戸や祠を配置し、自発的に寄り道を促す。そして地形にも一工夫加える。目標となるランドマークを三角形の地形で隠すことで、徐々に見えてくるサプライズ感を演出し、三角形の先端に視点誘導する効果もある。

CEDECの記事を読めば緻密な計算が見て取れる。特に技術論・方法論の両側面からオープンワールドを体系づけて論じたタイトルは中々無い。

ランドマークを出来合いのコピーで埋めるのは、札幌時計台はりまや橋みたいながっかり観光スポットのコピーを配置しまくるようなもので、ゲームの見識がクローズドに過ぎるというものだろう。

 

 

6.生きた世界を作る

全ての村には日々の生活を営む村人がいます。我々が望まないのは静的な世界なので、村ではゲームの過程で大幅な変化があります。これは小さな変化の場合もあれば、大規模な結果となる場合もあり、時には地域全体の様相が変わる場合もあります。

そのような“生きた世界”では、人々に反応して欲しいものです。

『The Witcher 3』レベルデザイナー ― Miles Tost

生きた世界とは何なのだろうか。

『The Witcher3』では、雨が降れば人々は雨宿りを求めて逃げ惑う。

実世界の市場経済のように、海や川に面した街では魚が安く、鉱山に近い街では石炭が安い。世界では突発的なイベントが発生し、それに介入するも無視するもプレイヤー次第。振る舞い次第では忌み嫌われるウィッチャーに対する民衆の態度に変化が生まれ、些細な決断でも影響を及ぼし、36種ものバリエーションに分かれる。

 

▲全エンディングバリエーション(AFGuidesの動画

米メディアBUSINESS INSIDERのデイブ・スミス氏は今挙げたこれらを以て、周囲の変化に対して反応する世界こそが『The Witcher 3』の魅力と語る*4。だが、僕は必ずしも全てがリアルである必要は無いと思っている。『Watchdogs』を例に取ると、最初のうちはモブNPCそれぞれに設定されているプロフィールに関心を持っても段々と興味が無くなっていく。『GTA5』でも各々がルーティンを持っているが関心はさほど無い。

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▲『Watchdogs』ではNPCの個人情報を見ることが出来るが、NPCはエキストラのような絵作り上の背景であり、関心を惹くものではない

しかし、RPG的な分岐構造に起因するオープンワールド世界の視覚的・構造的な変化は重要な要素であると感じる。『skyrim』の内戦クエストでは、馴染みのある街が戦火に包まれ、所属していた諸陣営(盗賊ギルドや同胞団)の人事が変化する。

www.youtube.com

▲『skyrim』でプレイヤーが最初に訪れる都市「ホワイトラン」も戦火に包まれる

(上)MisterNBG氏の動画 (下)Charles Lascanoun氏の動画

集落規模でもこういった影響は起こる。『fallout3』のテンペニータワーは僅かな人間だけが住む核戦争後にあって安全な場所。安寧を求めて、入居させるよう訴えるグール(放射能で突然変異した人間。風体から差別を受けている)が正門にはいた。僕は富裕層を説得し、グールを入居させた。しばらくの後、グールは住民の人間を皆殺しにしていた。

▲(10:19~)グールと人間の共存を図った結果、住人は皆殺しにされてしまう。(OrcCorp氏の動画

子供の頃を思い返すと、好きな子に自分を認識させたくてちょっかいを出した覚えがある。オープンワールド世界においても自分が何かをすれば反応を返して欲しいものだ。

出来事に介入して状態が変化するメカニクスオープンワールドを動的に、即ち生きた世界にするのではないだろうか。 

 

 

結びに

上手な作りのオープンワールドゲームの諸要素を述べてみましたがいかがでしょうか。ちょっと要素を一般化し過ぎてしまったかなという印象もあり、例として挙げたゲームタイトルも自分の好みに偏りもあり、という気もするのですが……

 

今回まとめてみて、気づいたのはAAAタイトルでは当たり前となりつつあるオープンワールドは想像以上の体力がいるということ。そういう意味ではクラウドファンディングでパブリッシュ資金を集めた『Kingdom Come: Deliverance』などは凄いなと。無論、『Mafia』等で培った技術に裏打ちされたものであることは確かなんですけどね。

 

前述の通り、Ubiですら研究のスタジオに日本円で数十億規模をつぎ込む時代。『FF15』で「必要なことは、やり尽くした」と電車広告で喧伝していましたが、オープンワールドゲームはやり尽くしたと思ってもまだやるべきことがあると、有名タイトルのクリエイターインタビュー等を読んで感じました。

 

参考ソース

https://www.gamespot.com/articles/the-witcher-3-is-an-open-world-with-no-loading-tim/1100-6426896/

https://kotaku.com/how-the-witcher-3s-developers-ensured-their-open-world-1735034176

https://80.lv/articles/skyrim-designer-on-building-virtual-worlds/amp/

https://www.gamespot.com/articles/how-the-side-quests-in-the-witcher-3-can-change-th/1100-6426897/

https://www.pastemagazine.com/blogs/upupdndn/2008/10/interview-todd-howard-fallout-3-creative-director.html

https://www.reddit.com/r/kingdomcome/comments/7xqfm4/daniel_vavra_interview_from_last_night/

https://www.theguardian.com/technology/2013/sep/07/grand-theft-auto-dan-houser

http://www.makinggames.biz/feature/quest-design-in-the-witcher-3-wild-hunt,6896.html

https://www.eurogamer.net/articles/2014-09-28-sunset-overdrive-the-ted-price-interview

https://gamingbolt.com/how-do-developers-create-massive-open-worlds-for-exploration

https://www.gamer.ne.jp/news/201709010048/

 

 

 

*1:ノンリニア(nonlinear)―日本語で非線形の意。ストーリーラインに関する意味と、レベルデザインに関する意味の2つある。

まずはストーリーラインの手法を示す言葉から。

リニアなストーリーというのは、作者が筋道を立てたストーリーラインに沿って進行する構造で原則的にエンディングは一つ。『アンチャーテッド』のようなタイトルが代表的。

対して、ノンリニアはストーリーラインが一つではない。ストーリー分岐と言えばわかりやすいだろうか。ビジュアルノベルも言ってみればノンリニアオープンワールドのゲームに用いられる場合には、一般的にサブクエストが無数にあったりプレイヤーの選択によってストーリーが分岐されるようなゲームを指す。

 

次にレベルデザインを指す場合。

リニアなレベルデザインとは『ポケットモンスター』のようにジムリーダーを倒したら次のジムリーダーというように攻略の順序が定められているものを指す。ノンリニアの場合、そういった筋道は無い。最近では『ゼルダの伝説BotW』が有名で、プレイ開始直後にラスボスへ戦闘を挑むことも出来る。

このような、ストーリーテリング及びレベルデザイン上のノンリニアを以て“オープンワールド”と捉えるゲーマーも多い。『ザ・クルー』のようなゲームを無視してはいるのだが……

*2:Building Non-Linear Narratives in Horizon Zero Dawn - Guerrilla

*3:Ubisoftがカナダにオープンワールド研究のためのスタジオを新設。統括するのは『ファークライ5』のDarryl Long氏 | AUTOMATON

*4:http://www.businessinsider.com/witcher-3-living-world-2015-12