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歴史ストラテジーを作り続けるParadox interactiveの歴史

どうも、TRYDERです。

 

最近はハーツオブアイアンⅣというゲームにハマっていまして、他のゲームもてんでプレイ出来ていません。このゲームをプレイしたらあっという間に就寝時間ということもザラで時間泥棒のようなゲームです。

 

どういうゲームかというと、ある国を選んで内政やら軍備やらを整えて、来る第二次世界大戦に備えて覇権を争うというゲームなんですが、事はそう単純ではなく覚えることが多くて多くて。プレイ動画観ながら猿真似をしてプレイしている状況です。

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まあ、こんな感じで良い感じに枢軸マンどもが侵略してるわけなんだぜ。自由の鐘を鳴らさなくちゃ(使命感)

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このようにお馴染みのマッカーサーやらアイゼンハワーを司令官に据えたり、共和党を勝たせるか民主党を勝たせるかもプレーヤーに委ねられており、大統領を超えた裁量権があるのが魅力の一つ。民主主義じゃないじゃんって? ゲームにマジレスカコワルイ

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戦争をするために軍備を整えて……

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調子こいてる大日本帝国にそろそろしかけるかー俺もなー

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ちょび髭にクーデター工作仕掛けるのもいいな

 

みたいなif遊びが出来るんですが、やたらめったら数字や項目も多くて生温い覚悟のプレーヤーお断りゲーなんですね。これが。かくいう私も高校時代にハーツオブアイアンⅡにチャレンジして挫折しまして、こんなクレイジーなゲームを作ったゲーム会社って一体どんな背景があるんだと思ったわけです。

 

そこでParadox interactiveに関して調べたのでまとめてみました。また、この記事はEurogamer等ソースの厳密な翻訳ではなく再構成しているため、一部内容が異なる点があることも留意してください。

 

 

google翻訳をベースに明らかに誤訳と思われる箇所や訳の言い回しを修正しています。故に意訳も多分に含まれる上、訳者のスキル不足に起因する誤訳が含まれる可能性があります。もしも誤訳がありましたら指摘して頂けると幸いです。

1. Paradox interactiveとは

Paradox interactiveは他に類を見ないほど深い歴史シミュレーションゲームの開発メーカーとして知られている。それこそ中世ヨーロッパから戦国時代、第二次世界大戦、そして銀河の覇権を争う宇宙までだ。

 

しかし、新作をリリースをする度にバグ関係で混沌をもたらすメーカーとしても有名だ。この対比は2012年の2ヶ月を例に取ると分かりやすい。

同年2月にリリースされた中世を舞台とした戦略SLG、『Crusader Kings 2』は同社の傑作として刻まれている。しかし、僅か1ヶ月後にリリースした『Gettysburg:Armored Warfare』というRTSFPSを融合したようなゲームは酷い有様であり、ほぼ一人でプログラミングされたこのゲームはプレイ不能でメタスコア22点という記録的な低評価を得た

 

同社のCEOはFredrik Wester(フレドリック・ウェスター)。日本でもパラドゲーとして親しまれ、現在進行系で歴史マニアたちの心の琴線に触れるようなニッチなゲームを作り続けるParadox interactiveの成り立ちに迫っていきたい。

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Paradox interactive社 CEO、Fredrik Wester(フレドリック・ウェスター)氏

https://infotechumea.se/nyheter/spelutvecklaren-fredrik-wester-till-young-startup-day)より画像転載

 

 

2. 何故、Paradoxのゲームは人々を魅了するのか

Shams Jorjani(シャムス・ジョルジャニ)氏は、ビジネス開発担当副社長兼ユニコーン事業部長*1という信じられない肩書を持っている。

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Shams Jorjani(シャムス・ジョルジャニ)氏(Shams Jorjani (@ShamsJorjani) | Twitterより転載)

彼の仕事はParadoxの味に合ったゲームを追求すること。オンラインストア上のラインナップ(https://www.paradoxplaza.com/games)を見る限り、幅広いジャンルに手を出しているように見えるが、彼らがパブリッシングするのは非常に特殊なタイトルだけとShams Jorjaniは言う。

Shams Jorjaniは言葉を続けた。

僕達は数千時間とまではいかなくても、何百時間もゲームを遊ぶことができるような人が好きなんだ。 だから、ゲームには高いリプレイ性と「ハードコア(筋金入り)」な構成要素を求めている。

まあ、「ハードコア」という言葉は、今日は何も意味しないかもしれない。『Call of Duty』もハードコアのゲームとして表現するようになったからね。だから、僕達はスマートゲームって呼んでいるよ。基本的に「スマート(知的)」なゲーマーに向けてゲームを作っているからね。

僕たちはゲームに対して多くを要求するプレイヤーへ挑戦するものを追求したいんだよ。

これらのゲームは常にクールとは限らない。それに、他と比べてセクシーで輝いたタイトルというわけでもない。しかし――と、Shams Jorjani(シャムス・ジョルジャニ)は言う。「プレイヤーが何度も何度もプレイしに戻ってくるゲームなんだ」。

グラフィックの追求は終焉に向かうことを意味している。彼らのゲームは終わりではない。ゲームを売るためには高画質は必要ないのだ。

 

また、Paradoxのゲームは高い拡張性を秘めており、このことも売上に良い影響を与えている。Paradoxはゲームに拡張機能を与える名人なのだ。Shams Jorjaniはこれを「ロングテール(長い尻尾)」に例える。何ヶ月・何年にも亘るプレイに飽きないようなゲームはDLCを通じて多くの収益を得ることが出来るという。

 

Shams Jorjaniは語る。

プレイヤーが遊んだ時に本当に面白くて好きだと感じられるようなゲームとは、よりコンテンツを求められるものであり、ビジネスの観点から言えば提供しない理由がない。

プレイヤーが更にもっとそのゲームを愛する場合、我々がそれ以上にコンテンツを提供しない理由は更にない。

 

 

3. 現CEO、Fredrik WesterがParadoxと出会うまで

Fredrik Wester(フレドリック・ウェスター)の最初のビジネスは、母親を法廷に立たせる寸前にまで至ったところで一度終わりを告げた。

6歳の頃から、ゲームをしていたウェスター少年はAtariと後に発売されたZX Spectrumで成長した。彼は最高のゲームは欧州の外からもたらされることに気づき、15歳の頃、兄弟のDanielとともに輸入し始めた。

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Atari 2600(Atari 2600 - Wikipediaより画像転載)

 

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▲ZX Spectrum(ZX Spectrum - Wikipediaより画像転載)

ウェスター少年はスウェーデンの新聞に広告を掲載し、販売ルートは自宅の電話であった。電話が鳴って、相手から受ける注文の半分以上が任天堂のゲームであった。

 

毎日が電話の嵐であり母親は辟易していたが、まだ高校生の子供にとって充分すぎる所得があることは認めなくてはならなかった。問題があるとすれば、彼らの取り扱っていたゲームは海賊版であったということである。

 

彼らは法的責任のある年齢ではなかったので、彼の母親に手紙が送られた。この手紙はスウェーデン任天堂の訴訟代理人からの販売差し止め命令であった。少年たちのビジネスが継続される場合、母親は訴えられるというものだ。結局、 訴訟代理人ウェスター兄弟の間で話し合いがもたれた。ウェスター兄弟は自分たちのしていることが犯罪だと知らなかったために始めたことであり、即座にビジネスをやめた。法的措置は講じられずこの一件も無事収まった。

 

そしてウェスターは1998年に大学を卒業し、経営学の学位を取得した。彼はパートナーと経営コンサルティング会社を立ち上げ、インターネットバブル後期における企業の効率化と成長の最適化を手助けした。彼の専門はオンライン顧客サービスシステムとそのプロセスに関してであった。

 

2001年9月9日以降*2、バブルは崩壊しウェスターは新たな機会を探すこととなる。

それはほろ苦いビジネスから15年以上経過した2003年。彼は再びゲーム業界へと舞い戻る。それがParadoxとの出会いであった。

 

 

4. Paradox interactiveが出来る日

Paradox interactiveのルーツを辿ると、初めはTarget(ターゲット)と呼ばれるテーブルゲームの販売会社から始まった。同社はスウェーデンで最も有名なボードゲームの一つである『Svea Rikeにインスパイアされ、ビデオゲームへの進出を決断した。

 

しかし、ビデオゲームの『Svea Rike』は成功を収めるも会社は傾き、2000年を迎える前には破産してしまう。まだ雛鳥のようであったビデオゲーム部門は新会社Paradox Entertainmentに売却された。

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▲Svea Rikeのゲーム画面(Svea Rike for Windows (1997) - MobyGames)より転載

Paradox EntertainmentはSvea Rikeシリーズを取得し、2000年には更に意欲的な改作も販売した。それは今日に至るまで社に莫大な影響を与え続けてきた『Europa Universalisという壮大な戦略ゲームである。

また、いくつか他の壮大な戦略ゲームの開発も始まっていた。第二次世界大戦のタイトルである『Hearts of Iron産業革命期の『Victoriaである。これらタイトルへの魅力が高まるとともにファンもますます増えていった。

 

しかし、同社は著しく不出来なタイトルも開発し始めた。退屈なRTSリアルタイムストラテジー)タイトルの『Chariots of War』、うんざりするようなRPGタイトルの『Valhalla Chronicles』といったものだ。

あるベテラン社員は語る。

Paradox Entertainmentは、素晴らしい作品群をゴミで薄めてしまった。

1998年にTargetに入社しEuropa Universalisと関連作品群を世に送り出してきたJohan Andersson氏も語った。

Paradox Entertainmentは素晴らしいゲームで稼いだ資金をブランド購入に投じるだけでした。

 

2003年、Fredrik Wester(フレドリック・ウェスター)はParadox Entertainmentのビジネスプラン作成のコンサルティングを請け負うこととなる。同社は当時、ライセンス管理部門とビデオゲーム開発部門に分かれていた。

 

Paradox Entertainmentの幹部はビデオゲーム部門をトリプルAスタジオに変貌させ、当時の最高のゲームタイトルに匹敵するようにしたかったウェスターがそのプロジェクトに目を向けてみると、最後のプロジェクトであるフリープレイの多人数参加型FPSゲームが存在していた。

 

このタイトルが完成すれば革命的なものであったのかもしれないが結局は中止され、30人以上の開発者が職を失った。

他のトリプルAタイトルに手を出すことは狂気の沙汰であるとウェスターは幹部に言及し、彼は現実的な提案を行った。それはSLGファンを中心に据えて、世界のゲーマーに創造性をもたらすような他企業をサポートするパブリッシャーへと舵を切るというものであった。

 

しかし、これは幹部が聞きたい答えではなかった。経営陣はライセンス管理部門を成長させる方により多くの価値を見出し、Robert E. Howard*3のライブラリを倍増させ、ゲーム化や映画化に適合させるためにコナン・ザ・バーバリアン(邦題:英雄コナン)の知的財産管理に専念することを決定した。

結果、経営陣はウェスターが提案した事業改善策を支持せず、ビデオゲーム部門を閉鎖し、残っていた7人のスタッフも解雇してしまう。

 

これは神のもたらした祝福であり、ウェスターにとってチャンスが巡ってきたようなものであったし、ビデオゲーム部門にとっても改めてスタートを切るチャンスであった。

Paradox Entertainmentの前CEOと共にビデオゲーム部門を買収し、7人のスタッフと全ゲームの権利を携えてParadox Interactiveは結成される。

Paradox Entertainmentがコナンを獲得している間、Paradox Interactiveは成功した偉大な戦略ゲームの権利を持って去ってしまったのである。

 

獲得した中にはJohan Andersson(ヨハン・アンダーソン)というベテランのゲーム開発者も含まれていた。

 

 

5. Paradox SLGの生みの親、Johan Anderssonが戦列に加わるまで

日本でもヨハン・アンダーソンは人気である。バグが多いパラドゲー(Paradoxのゲーム)で不具合が生じた際、まずいじられるのはチームリーダー兼メインプログラマーのヨハンだ。しかし、『Europa Universalis』や『Hearts of Iron』といったParadoxのアイデンティティー的作品を生み出しているのは紛れもなく彼である。

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▲チームリーダー兼メインプログラマーJohan Andersson(ヨハン・アンダーソン)氏

(本人のツイッターJohan Andersson (@producerjohan) | Twitter)より転載

ウェスターが就任した時、Johan Andersson(ヨハン・アンダーソン)は僅か30歳であったが、ゲームビジネスに関してはベテランだった。

 

彼は両親の反対を押し切ってストックホルム大学を中退し、90年代初頭、彼のゲーム業界におけるキャリアはスタートした。

「私の祖父は非常に疑り深い人だった」とアンダーソンは話す。アンダーソンの祖父はこう言った。「何故、中退するんだい? 私が思うに、ヨハンはそこで良い教育を受けるつもりなんだろう? ヨハンは賢い子だからね」と。

 

しかし、無論そんなことはない。アンダーソンは友達の友達がコンピューターゲーム会社を起業し、成功していることを知っていた。その友達の友達というのが、現在Battlefieldシリーズで知られているデベロッパーのDICE創業者であり、その成功は大学内の小さな友人グループに火を付けたのである。

アンダーソンの仲間が起業されて間もないFuncomで働くためにノルウェーへ移り住んだ時、彼は独学ではあったがきちんとしたプログラマーだったしこれについていった。後に30人以上の仲間もこれについてきた。彼はすぐに雇われ、SEGA GENESISメガドライブの米国での製品名)向けに16bitゲームの制作に着手した。

 

しかし、当時の彼は罠にハマっていることに気づいていなかった。

 

1995年、アンダーソンはメガドライブ向けのBeat 'em up(ベルトスクロールアクション)ゲーム、『Nightmare Circus(日本未発売)』制作チームの一員であった。Funcomのプロデューサーがアンダーソンをこのプロジェクトに引き入れた時、このゲームは制作が遅れていた。

 

セガはこのゲームに多額の出資を行っており、ノルウェーへ自社のエグゼクティブプロデューサーを送り、状況把握に努めていた。その訪問から2週間経過した頃、セガは激怒したとアンダーソンは言う。

彼、そして仲間のプログラマーたちはカリフォルニアへ送られ、ゲームを完成させるために隔離された。彼の小規模開発チームはアパートに押し込められ、車や免許証もない彼らはセガの為すがままであり、週6日で1日14時間働かされた。

唯一の良かったことと言えば、ノルウェーの労働法が適用されていたため、残業代を含む完全な形で給与を得ていたことであった。しかし、それでもチームには深刻な負担をかけていたことは確かであった。

 

3週間が経過し、ノルウェーへ帰国すると他のプログラマー達は軒並み会社を去っていった。彼らはそこで働くことにうんざりしていたのだ。しかし、アンダーソンはというと2年以上そこで働き続けた。この経験は彼をより優れたプログラマーへと高め、更にはプロジェクト管理に対する強い関心を持つきっかけにもなった。その頃、彼はゲームの移植作業という仕事を受け持っていたという。彼の話すところによると「プロジェクトの最中に仕事を投げ出して会社を辞めることはしなかった」という。

 

そして数年後、アンダーソンは母国のスウェーデンへ帰国し、Paradox Entertainmentのビデオゲーム部門で新たな職を得た。この時、助けになったのがこれらの前述した献身の精神である。

 

 

6. Johan Anderssonが紡ぎ出す叙事詩的ゲーム

Johan Andersson(ヨハン・アンダーソン)がコンソール向けのアクションタイトル(上述のNightmare Circus)を制作した後、彼は自分が楽しんで遊べるようなゲームを制作したかった。彼がParadox Entertainmentで手がけた最初のゲームは2000年に発売された『Europa Universalisである。同名のフランス製ボードゲームに基いており、プレーヤーは様々な勢力を支配しながら、1492年から300年間の激動の時代を制していくというゲームである。

 

比較する上で最も近いタイトルは『Civilization』シリーズであるが、『Europa Universalisはいかなるタイトルよりも複雑で、王国勢力・政治・宗教・軍事といった側面を強調し、細密に操作できるのが特徴である。アンダーソンはこのことを「クラック・オン・リスク(裂け目への賭け)」と表現する。要は極めてニッチな市場の裂け目に成功を賭けてしまうのだ。

 

Europa Universalis』は大ヒットを遂げ、このゲームの販売だけでビデオゲーム部門を破産させずに成り立たせていた。そして2003年、Westerとアンダーソンの開発チームが再び命運を賭けたのはビデオゲーム部門をParadox interactiveへ移そうとした時である。しかし、そう簡単に行くものではない。チームはParadox interactiveの収益を維持し、成長していくために新たな別のゲームを必要とした。

 

 

7.『Crusader Kings』から得た教訓と転換

Europa Universalis』が「ロングテール*4」の販売路に乗っている間、アンダーソンと7人の彼のチームは新しいゲームを作るのに忙しかった。彼らは『グランド・セフト・オート』やFPS(一人称シューティング)が流行る市場の中でそれらを一切無視し、彼ら自身が愛するゲームを作った。そして、それを売るのはウェスター次第であった。

 

Crusader Kings』は『Europa Universalis』のゲームエンジンである“Europa engine”で作られたゲーム。それは、ヨーロッパ諸国が真の意味で形成されていない1066年を始まりとしたオリジナルのストラテジーゲームだ。

プレイヤーは王・公爵・小領主となって力を強める近隣諸国・他領主・教皇と対することが許される。綺羅びやかな陰謀は本作における主要パート(王位継承のような)であり、ゲームプレイを通じて大国ないし小国を形成しながら叙事詩的な一家の物語を広げていく可能性を与えるものだ。

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▲『Crusader Kings』ゲーム画面

Crusader Kings Complete on GOG.comより画像転載 

このゲームの完成に向けて、チームの士気は高かったが一つの問題があった。Paradox InteractiveのパブリッシャーであるStrategy Firstが破産申告を行ったのだ。米国における販売チャネルは消失し、それに伴い二ヶ月分の収益のみしか得ることが出来なかった。

 

Wester氏は語る。

Strategy Firstは我々に支払うべきお金がたくさんあった。(Paradox Interactiveの)年間収益の約20%分だ。 

Westerは顧客サービスの経験があったため、『Crusader Kings』の予約が滞った場合にファンからの信頼を失い会社の今後に影響が出ることは理解していた。

Westerは3週間を費やしてユーザーが予約を行えるポータルサイトを設置し、梱包と出荷を行ってくれるパートナー探しを始めた。Westerが見つけたベストなものは1箱につき2ドルというものであったが、それは会社が負える額を超えたものであった。

 

Wester氏は続けて語った。

僕たちは1週間で4000箱を梱包したよ。仕事の後、倉庫に行って3時間。1つ1つのパッケージをね。「君と君、今週は仕事の後に僕と一緒に倉庫で梱包作業を行ってくれ」といった具合に2人に声をかけた。彼らは口々に「クレイジーだ」と言ったよ。僕たちは毎日15時間働いて、大きなバッグを抱えて郵便局へ歩いて行ったんだ。

面白いことは――「僕たちは出来る!」という姿勢だ。当時はいつもその姿勢であったし、今でもそうだ。 

しかし、『Crusader Kings』は期待したほどの売上は無かった。売上不振の原因の一端にはバグがあった。僅かな予算で作業していたことからAnderssonのチームは品質管理の節約を強いられてしまったのだ。

それは以降続いていく野心的なタイトルの先駆けであったが、ゲームを崩壊させかねないバグという欠点及び(ゲームの)複雑さが急激にファンを増やすことに失敗したのである。

 

Westerが目撃した一連の悲惨な事態への解決策はもともとの計画に立ち返り、デベロッパーからパブリッシャーに転換することであった。

 

 

8. パブリッシャーParadox interactiveとしての出立

堅固なキャッシュフローを維持することによってのみ、彼らの持つSTGブランドの開発をサポートし、適切な品質管理という贅沢品をゲームに与える充実した予算を確保し続けることが可能となる。

 

2005年、1年前に始まったValveによるSteamの盛り上がりの中でWesterはある実験を行った。同社最悪のタイトル『Victoria: An Empire Under the Sun』をダウンロード専売したのである。Westerはこれがオンライン市場から期待できる収益の基準を示すと考えていた。実験はWesterを驚かせる結果となった。

 

これにより、“Paradox On Demand”を開設し、他タイトルを徐々に追加していった。まもなく彼らはサービスの名を“GamersGate”に変更した。それは世界中の小売店で入手できないゲーム(インディーゲーム等)のためのヨーロッパの拠点となり、その成功はパラドックスに今まで欠けていたキャッシュフローをもたらす結果となる。

 

Wester氏は語る

契約出来るものには何でもサインしたよ。タイトル名は覚えていないんだけど、僕たちはいくつかの本当に酷いゲームにもサインした。本当に良いゲームにも巡り合って中でもMount&Bladeはベストセラーのシリーズだったね。

幻想的な封建時代のヨーロッパに設けられた壮大な戦略性と一人称の近接戦闘との型破りな融合を特徴とするMount&Bladeは、しっかりとしたパブリッシャーとしてのParadoxを確立する手助けとなった。このゲームは野心的で中毒性がありながらも(品質が)安定していた。

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結局、GamersGateは分業化した。WesterはGamersGateの少数株主を続けながら、Paradox Interactiveをゲーム業界の中でも偉大なパブリッシャーの1つとして確立することに焦点を当てている。AndarsonはParadox Development Studioの責任者となり、パブリッシングの価値がある素晴らしいゲームを作成する責任が生まれた。

 

 

 

9. Paradox初のミリオンセラー

Paradox Interactiveが初めてミリオンセラーを達成したタイトルは意外にも自社開発タイトルではない。Paradoxの手助けの下、8人の大学生チームであるArrowhead Game Studiosが開発したゲーム『Magicka』であった。

2011年初頭、非常に独創的なゲーム『Magicka』が発売され、熱狂的な途方もない人気作となった。130万本もの販売本数を達成し、まさしく完璧な「長い尻尾」の例となったのである。新しい面、新しいアイテム、新しいコスチュームなどを含んだDLCも400万を超える販売を達成する。

それはパブリッシャーにとっても莫大な利益(250%増)であった。複雑で、バラエティに富み、拡張性に優れ、そして奇妙なほど上手く組み合わされたこのゲームは多くの点で典型的なParadoxのタイトルと言えるようなものであり、Paradoxの成長をも誘引した。

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▲『Magicka』ゲーム画面(http://arrowheadgamestudios.com/games/magicka/より画像転載)

そして2度目のヒットは翌年のことだった。Fatsharkと呼ばれる小規模デベロッパー開発の『War of the Roses』というゲームによってもたらされた。薔薇戦争が舞台の一人称近接格闘ゲームである。2015年にはパブリッシングを請け負った『Cities:Skylines』が1ヶ月でミリオンセラーを達成するなど、今日においてParadox Interactiveとパブリッシング業務は切っても切れない関係に至っている。

 

 

10. 品質管理という大きな課題から生まれた姿勢

Paradoxはより奥深くスマートなゲームを作る企業としての評判を確立していたが、品質保証に関しては疑問視の声が叫ばれていた。2009年を振り返ってみると、ますます人気が高まっていたHearts of Ironシリーズの三作目『Hearts of IronⅢ』はバグを抱えていた。その後、重大なパッチをいくつか配信したことでこれらのバグの殆どが解決したが、Shams Jorjani(シャムス・ジョルジャニ)は発売当時を「災害のようである」と例えている。

 

その後、発売された『Sword of the Stars 2』、『King Arthur 2: The Role-playing Wargame』、『Pirates of Black Cove』、『Gettysburg: Armored Warfare』、『Ship Simulator Extremes』といったParadoxタイトルの全てがバグによる深刻な打撃を被っていた。Paradoxは良い評判を得ることは出来ず、解決策はただただそれらの指摘を認めることであった。

 

Paradoxのコミュニティマネージャーを二年間勤めていたLinda Kiby(リンダ・キビー)は公正な苦情を抱いていたプレイヤーらと直接話し合った。強がったり、状況を長々と説明する企業は珍しくないが、Paradoxのアプローチは素直に認めることであった。彼女は他の会社には出来ないことだと考えている。問題があることを認めることが第一であり、彼らとの関係を修復する唯一のステップなのだ。

 

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▲元Paradox Interactiveコミュニティマネージャー、現Warpzone Studios CEO:Linda Kiby氏

Linda Kiby (@lindakiby) | Twitter

Linda Kiby(リンダ・キビー)は語る。

「おお、神よ! ゲームにバグを含んでいることを何故お認めになるのですか!」などと言う人は誰もいない。

これらの言葉が開発者から発せられるということは、単純に否を認めるだけでなく検証でもあるという。全社員がゲーマーのコミュニティ全体を見渡し、ゲーマーが不満に思う問題点の理解に努めるにはフィードバックは不可欠だ。

Kibyは続けた。

Paradoxの誰もがプレイヤーフォーラムに参加しています。私たちは社内でのバグリポートのためにもフォーラムを活用しています。

 

この「誰もが」というワードにはJohan Andersson(ヨハン・アンダーソン)も含まれている。Johan Anderssonはプレイヤーからの質問をかわすことには興味がなく、寧ろ行うような会社や人物を軽蔑している。

Johan Anderssonは言う。

「何故、嘘をつくのだろうか。人々はいつも嘘を看破しようと試みている。長い間嘘をついていたり、隠蔽しても必ずそれを見つけてしまうというのに」

 

創設者の一人であり、CEOのFredrik Wester(フレドリック・ウェスター)自身もプレーヤーに説明するため、スタッフに聞き込みを行っていた。フォーラムやツイッター、時に寄せられる批判的意見に対して、彼の時間の大部分を費やして答えた。

Fredrik Wester(フレドリック・ウェスター)は語る。

もし僕が「何故、リリース時にこのゲームはバグまみれなんだ」という投げかけを受けたらこう答える。「私達はミスを犯しました。私達の不手際がその憶測を生んでしまう源です」とね。

僕はゲーム業界にいる人々がオープンでないことに驚いている。失敗を犯した時なんか特にそうだ。僕は人々の前に出てもっと話をすることを望んでいる。もしもあなたが問題を解決すれば皆が幸せになれるのだから。

しかし、だんまりを決め込んだまま沈静化を図っているのだとしたらプレーヤーは憶測を始めるだろう。議論が生まれているのだとしたら、その議論の輪に入るべきだ。

 

これらの考え方はFredrik Wester(フレドリック・ウェスター)の下で2012年、Paradoxがデベロッパーを信頼出来なかったために『Magna Mundi』(当時、開発中だったストラテジーゲームタイトル)をキャンセルする決断を下したという注目すべき声明へとつながっている。

 

Fredrik Wester(フレドリック・ウェスター)は語る。Paradoxがコミュニケーションに課す唯一のルールは母親に聞かせても許してもらえる言い草であるという点。だが、これはたまに漏れ出る皮肉的な表現を止めるよう言及するものではない。

Westerによる指摘の一つはこうである。

 

訳:Ubisoftは最近、市場に3DSの大きなポートフォリオを持つ(事業を拡大する)と大口を叩いているが、それはベストなタイプライターを手にするようなものだね

長期的に見れば、クソみたいな会社的回答よりは正直でオープンである方が良い、と明らかにWesterの助言を聞いていないJorjani氏*5

 

正直にコミュニケーションをとることをやめると何故、物事が地獄へ向かって進み始めるのかというと人々が勝手に空白を埋めていくからです。

 

また、彼は自身の考えを恥ずかしげもなく語った。

ある時、他のスタジオについて考えてみると、確かに(何事にも正直に答えることは)背水の陣を敷いているのと等しいと思った。しかし、利益ももたらしてくれる。一般的に言えば、僕達の話には説得力が宿る。

僕達は誰が最もメディアにツイートがピックアップされるかの競争している。僕はしばしば業界人(ゲーマー、ジャーナリスト、デベロッパー、特にビジネスマン)が物事を平たく語るのではなく、核心を避けて通るように感じるんだ。

 

このように自社の不利になるような事実も公開し、ユーザーからの指摘が事実ならば真摯に認める姿勢がParadox interactiveらしさと言える。一見開き直っていると思われるかもしれないが、フォーラムを設けてデベロッパーの声が迅速に届くといった仕組み作りを着実に遂行している点において、作品作りに対する姿勢は誠実そのものだ。

 

万人受けしないジャンルだからこそユーザーを逃さないために日々企業努力を続けている。

 

 

11. ニッチを取り扱うが故のリスク分散の重要性

『Magicka』の大成功に続いて一年後、『Europa Universalis』から続く系譜の最新作『Crusader Kings 2』で二度目の大ヒットを遂げる。これらはParadoxの中核を占めるものであり、社の背骨ともいえるタイトルであったが他タイトル同様にニッチなものであった。

 

Kibyは言う。

社は安定しています。我々のゲームがどの程度売れるのかは分かっており、財政的に我々が大きなリスクを抱えているというわけではないのです。

『Crusader Kings 2』はゲームオブザイヤーを受賞した。30万本以上売り上げ、膨大な量のDLCによる更なる稼ぎを以って“ロングテール”が証明されることにもなった。最も有名なDLCは“Ruler Designer”で、フォーラムの提案を反映して作られた本DLCをAnderssonのチームは誇りに思っている

 

社の成長が進むに連れ、今の大規模なストラテジーゲームはParadox interactiveと分社化されたParadox Development Studioが製作している。更に、よりゲームスピードの早いアクションゲーム及びオンライン体験に注力する部門をParadox North Studioという形で新設している。


Jorjaniは語る。

我々は2000万ドルの大きなプロジェクトではなく、20の狂ったようなプロジェクトをそれぞれ100万ドルで行っている。確かに全てが上手くいくわけではないが成功するために500万本売る必要も無い。

 

これは一つの大きなプロジェクトが大きな失敗へと繋がりかねないということを示している。

 

別のインタビューでWesterとJorjaniは、Paradoxの独自性と誰に断る必要もない試行錯誤できる自由性を強調している。Paradoxの誰かと話してみても遅かれ早かれこのテーマに行き着くのだ。

 

Paradoxは多様性がありながら、利益を追求する姿勢も絶やしていない。自らが遊びたいゲームを作りたいからこそリスク分散は欠かせないのだ。彼らのゲームは確かにニッチと評されるのかもしれないが、賢明な利己主義の下で実現していることを忘れてはならないだろう。

 

 

・感想

 

 

この記事のソースは2013年時点のものです。2013年以降はと言うと、Paradoxは大規模ストラテジーゲームとして『Stellaris』や『HoI4』などを自社IP として発売し、両タイトルともsteam等評価サイトをみるとそのクオリティに対し賞賛されています。パブリッシング業としても『Cities: Skylines』が1週間でミリオンセラーを記録するなど好調なようです。

 

プレイヤーとデベロッパーの入念な意見交換、誠実さ等は日本のゲーム会社も見習うべき点ですね。“ニッチ”なだけで終わらずそれをれっきとしたビジネスとして実現させているのは企業努力の一言につきます。

 

国産ゲームは苦境に立たされていますが、今こそ欧米ゲーム会社から学習すべき点は多いのではないか。そう感じずにいられませんでした。

 

ソース

Inside Paradox, the strangest company in video games • Eurogamer.net

Solving Paradox: How the historical strategy game maker stayed alive | Polygon

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:ユニコーン事業とは、ユニコーン企業という言葉があるように高い成長性を持つようなゲーム作りを追求することを指すと思われる

*2:2001年9月9日問題と呼ばれる秒数が10桁になることで起きるプログラム上の問題

*3:ロバート・E・ハワード(1906年-1936年)―1900年代初頭のアメリカで活躍した冒険小説作家

*4:ニッチ商品を多く取り揃えて利益を得る売り方

*5:

https://twitter.com/ShamsJorjani/status/329197084945293313

(訳)ゲーム業界のプロによるアドバイス:Paradox Interactiveはカジュアルなゲームをリリースしません・ニッチ・マザーファッカー、お前他のことは言えないのか? 

(解説)映画パルプ・フィクションのネタで、恐らくカジュアルなゲームをリリースしないニッチなゲーム会社と言われ続けることにうんざりしていると思われる。下品な言葉を使っていることからWester氏の「母親に聞かせても許してもらえる言い草」という助言を受けていないとネタにされている。