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【レビュー】モンスターハンター:ワールド(MHW)

どうも、TRYDERです。

1月の更新をすっ飛ばしまして、明けましておめでとうございますみません。

 

今回は欧米市場を席巻中の話題作、モンスターハンター:ワールド(MHW)についてレビューをしてみたいと思います。

モンスターハンター:ワールド - PS4

では、どうぞ。

 

任天堂ハードに移行したモンスターハンターシリーズをやきもきした目で眺めるハンターは数多くいただろう。ハードパワーに起因する劣ったグラフィック、代わり映えしないゲームシステムはアイデンティティとすら言えるシリーズの特色であったが、現代標準のグラフィックで描かれた新世代のモンハンを胸に抱いたハンターは多かった。本作はそんなハンターへの返歌であり、作中で荒れ狂うモンスターのようにシリーズの秘めたる生命力を感じさせるものになっている。

モンスターハンター3(トライ)(通常版) 特典 モンスターヘッドフィギュア付き - Wii

モンスターハンター3(トライ)以降は任天堂ハードでのリリースが続いた

モンスターハンターと言えば、あらゆるゲームジャンルのエッセンスが調和しつつもまるでマティーニのようにそれぞれが引き立ち、「狩りゲー」という1ジャンルを築くに至ったゲームだ。ダークソウルのような骨太なボスバトルを孕んだアクション、敵を倒して自キャラを強化という日本人に馴染み深いRPG、多人数で作用し合いながら一つの敵を倒すというMMOライクなマルチプレイはライト層からコア層までを虜にした。今作では根底にある魅力を残しながら「生態系の再現」という根源的ながら意欲的な革新を図ったことでシリーズIPに息吹をもたらした。


据え置きハードに向けて1から新規制作されたモンスターハンターシリーズとしては『モンスターハンター3』以来である。携帯機ではなくPS4/Xboxといった高性能な据置ハードでリリースしたのは、据置ハードが普及している欧米市場を意識しているためであることは間違いなく、実際にカプコンの会長である辻本憲三氏がそのような旨の発言を2016年にしている。振り返れば『モンスターハンター4G』の欧米市場での売上はモンスターハンターシリーズ初の100万本を突破し、カプコンはブランドを盤石なものにしようと試み続けてきた。今作では高品質なグラフィックやシームレスなフィールドといった欧米市場の求めるクオリティを考慮したゲームデザインになっている。そんな欧米市場も視野に入れた今作の特徴と魅力を見ていきたい。

 

 

生態系というアプローチ

近年、カプコンはIPの再生を図っていたことは言うまでもない。『モンスターハンターX』ではアクション的なアプローチで試行錯誤を図っていたが、同じようなワークプロセスで生まれる同シリーズはちゃぶ台をひっくり返すまでには至らなかった。しかし、今作では「生態系」というフィールド面からのアプローチを採用したことで、制作哲学において多大な広がりをもたらし、大自然から生ずる多様なギミックを駆使して脅威に対処するという、より狩人的遊びを実現することに成功した。ちゃぶ台返しではない、まさに一瞬でテーブルの色が変わるクロス引きのようなアプローチで解決したのだ。

 

鬱蒼と木々が茂るジャングル、荒涼という言葉が相応しいほど過酷な環境を物語る荒地、モンスターの亡骸が散らばりマグマが噴出する洞窟……多様な環境の数だけ生態系は存在し、画面いっぱいに広がるそれらは母なる大地が産み出した自然そのものだ。小型のモンスターは群れを成し、孤高のボスモンスターは優雅に跋扈し、時にはボスモンスター同士の縄張り争いを繰り広げる姿を目にすることが出来る。 f:id:TRYDER:20180206001342j:plain

▲大蟻塚の荒地で三匹が縄張り争いをしている様子

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▲陸珊瑚の台地

従来作フィールドではエリア移動毎にロードを挟む隔絶された面(ステージ)デザインであったが、エリア同士が起伏を伴いながら連綿と続くシームレスなフィールドは言わば大きな一つの面であり、没入感を絶つことなく自然の変化を感じながらモンスターとの追走に勤しめる。 食物連鎖の形が再現された高低差に富むフィールドと、ワイヤークライミングやターザンロープ、ダイブジャンプ等アクションとの親和は見事で、目的無く駆け回っているだけでも楽しい。プレイヤーを迷い子にさせない導蟲も、マップガイドとしての役割を作品の世界観にマッチする形で実装している点は見事だ。

▲広大で複雑なフィールドではガイドは必須であり、世界観を壊さずにこれらを両立させる導蟲の効用は絶大だ。

ビジュアルだけでなくゲームメカニクスに直結するギミックが多数組み込まれているのであれば冷静でいられる筈がない。頂点捕食者には自然の力を借りるのが肝要だ。延った蔦はモンスターの足を絡めとり、ドクカズラを斬ってやれば溜め込んだ毒液を吐き出して即席の毒沼を作り、閃光羽虫に攻撃を加えれば激しい光でモンスターの目を眩ませてくれる。ド派手な土石流や落石を引き起こすことも出来るし、こういったギミックは自然への興味を尽きさせない。加えてギミックを多数用意したにも関わらず難易度が破綻していないバランス調整の妙も感じさせる。

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▲例えば回復ツユクサにインタラクトすれば体力を回復出来る。このようにモンスターを麻痺させるシビレガスガエルなど、ゲーム内の動植物という違和感無い形で多数存在する。

 

卓越したアクションと生けるモーション

『Darksouls』や『モンスターハンター』では鈍重なモーションで装備の重量といった重々しさを表現し、その制約に則って攻撃を躱すという醍醐味が存在していたが、爽快感の欠如と敵に対して消極的なゲームプレイが強いられがちであった。『Darksouls』が『Bloodborne』を経て、アクションがよりスピーディーなものへ変化したように今作も同様の変化を遂げている。武器の振り下ろし・移動速度・回避といった戦闘アクションから、蔦上り・採掘・回復といった各種モーションまでが全体的にキビキビとしており、フラストレーションが少なくなっている。特にPS4proの場合、50~60fpsのフレームレートで描画されるため非常に滑らかで、頭に描いた通りの操作感と反応が返ってくる。

 

モーションキャプチャによって紡がれたモンスターモーションは躍動感に溢れ、プレイヤーが痛打の一撃を加えれば、苦悶するように怯み、激情に駆られたように怒り、涎を垂らしながら傷付けられた羽で飛びにくそうに寝床へと去っていく。従来作ではモーションキャプチャは解像度が低いグラフィックを補う手段に過ぎなかったが、今作の鱗一つ一つの光沢の変化が判別出来るほどに高精細なグラフィックへモーションキャプチャが加わればそれはもう“本物”にほかならない。ゆっくりとフィールドを徘徊するアンジャナフや高層ビルほどの巨躯を揺らすゾラ・マグダラオスを見ていると、キリンやゾウの鷹揚な様子を見て感動した幼少期の動物園に行った時の経験を思い出す。童心に帰るような屈託のない純粋な経験が待っているはずだ。

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▲妖しく蠢くゾグ・マグダラオス

ハンターの動きもモーションキャプチャによって生み出され、武器種も全14種と多彩だ。新規プレイヤーにとっては武器種の選定、武器の派生モーション等乗り越えるべき壁は大きいが、動きと演出の派手さでとりあえずの満足感を得られる点も思わぬ副産物だ。操虫棍を使えばダース・モールのダブルブレードライトセーバーのように素早い連続攻撃を繰り出し、かつジャンプして空中戦のような立体的なアクションも出来る。チャージアックスは剣や斧といったモードを切り替えながらコンボを決め、トドメで爆発を引き起こし火力も絶大だ。プレイヤーはこういった武器種を学びながらどのモンスターに対してどの武器が得意なのかという自分なりの解を導出していく。これこそシリーズが持つラーニングカーブの快感であり、敵のモーションを見切って避けられるようになった時、シリーズのファンになってることは間違いないだろう。 

 

 

刷新されたシステム面

従来のハンターは狩りの他にもマネジメントしなければいけない点が多かった。情報マネジメントの面から見てみよう。例えば、調合一つとっても調合レシピをネットや攻略本で調べ、いざ調合するにしてもアイテム枠一つを占有する調合書を持っていないと調合成功率が芳しくないものであった。しかし、ゲーム内で調合リストが実装され、調合成功率も廃されたことでこういったプロセス全てが必要無くなった。それどころかフィールドでアイテムを入手すれば自動で調合までしてくれる自動調合システムも実装。調合の煩雑さは経験し、快適になっている。

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そして、モンスターの弱点を調べるにあたっても、ネット及び攻略本で弱点属性・弱点部位・肉質を検索しないと戦闘の前準備が出来なかったが、プレイヤーがモンスターの足跡等を採取して調査ポイントを貯めれば、報酬アイテム等まで明らかになる攻略wiki並の詳細なモンスター図鑑が完成するメカニズムが実装されている。

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ハンターを悩ませる素材マネジメントも特筆すべき改善点だ。例えば、採集。従来は採掘や釣りをする場合、ピッケルや釣り餌を持っていかなければならず、アイテム枠を圧迫するほか採集回数を重ねるとアイテムが壊れてしまうという制約が存在した。今作では採集ポイントに近づけばアイテムを持っていなくとも採集が可能だ。

 

また、前述した調合に要する素材も簡素化され、睡眠弾Lv1を例に取ると、従来は「カラの実+ネムリ草」で作れたものが、今作では「通常弾Lv1+ネムリ草」に変更され、通常弾Lv1の所持数は無限なので実質ネムリ草だけで作れるようになった。このように全体的に調合必要素材のスリム化が図られ、特に素材玉を要するものについてはスリンガーという新要素のおかげで素材玉が無くとも、例えば光蟲だけでスリンガー閃光弾が調合可能となっている。ちなみにスリンガーとは素材玉を要するアイテム(閃光玉、音爆弾など)やフィールドで採取できる石(可燃石、尖鋭石)を打ち出せるプリセットシステムのことで非常に便利だ。

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スリンガーで楔虫にインタラクトすればワイヤー移動が出来、モンスターへ乗り攻撃も可能だ。その他フィールドに落ちている石をモンスターへ撃ったり、閃光玉や音爆弾等の素材玉系アイテムを撃ち出すことが出来る。

武器の生産派生図も俯瞰出来るようになったことも付け加えて置くべきだろう。派生もwiki等を参照しなければ分からない情報であったが、今作では派生図が導入され、最終武器性能を予見して武器強化が出来るようになったことは煩雑さを軽減する改善点だ

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以上のように情報マネジメント然り、素材マネジメント然り、プレイヤーが狩りに集中出来るような仕組み作りが行われているのは、後続作のスタンダードとなるべき仕様と言いきれるほどの大きいシステム改善点だ。

 

欠点

従来作経験者にとってはこれ程遊びやすくエキサイティングなシリーズは無い。しかし、新規層にとってはどうだろうか。オンラインゲームの欠点として、稼働初期はシンプルなゲームデザインでもアドオン的に繰り返されるアップデートでコンテンツは膨大になり、新規参入の壁を引き上げてしまうという弊害が存在するが、本作も同様の欠点を有している。ワークフローとしてはシンプルに「狩り→装備を強化→」のループなのだが、本作では装衣など消費アイテムも増え、武器の属性や派生モーション等従来作同様に覚えることも多い。もしかたら、食事場の効用に気づかないかもしれないし、どのモンスターに対してどの属性が効き、その属性を持つ武器はどう作るのか、龍封力という属性の持つ意味は何なのかが分からないかもしれない。チュートリアルが導入された今作だが、やはり簡素なものだしwikiや友人に頼るいつものモンスターハンターと変化が見られないのは残念な点だ。

 

他にもゲーム終盤で要求される痕跡探しが非常に面倒だという点や導蟲があらぬ方向指し示す不具合、収録モンスターが少ない、オンライン周りの不便さ等細かい点で気になる部分があるものの、今作のゲーム体験はそれら欠点を凌駕するようなものであり、暴力的とも形容出来る圧倒的なビジュアル及びアートで欠点を欠点と思わせない出来に仕上げている。

 

総評

アクション性にのみクローズアップされていた「ハンティング“アクション”」は、環境とのインタラクションを得て同ジャンルを再定義し直した。それは自然との対話であり、雰囲気作りの努力が際立っている。密度の高い生物の世界に関心を誘われるし、岩を大事そうに抱えるクルルヤックの姿と、死の針を飛ばしてくるネルギガンテのギャップは食物連鎖の実体に他ならない。感覚で敵の攻撃を避けるというアクションゲームの根本的な面白さと、同じモンスターを狩ることで適切なリワードがもたらされる日本人好みのRPG的面白さとをエスプレッソのように抽出した本作は従来作プレイヤーを満足させることは間違い無い。従来のワークフローを維持しつつ全く新しいプレイフィールに仕上げた本作は「バイオ7」に続く新たなIPのリジェネレーションを成し遂げたと断言できるだろう。