ゲームメディアの収益モデルから見る課題
どうも、TRYDERです。
最近、私はこういうツイートを見かけました。
[トピックス]スプラトゥーンデザインのオールインボックスなど、Nintendo Switchの持ち運びに便利なアクセサリーグッズをご紹介! https://t.co/e5RaWmLR2K
— 任天堂株式会社 (@Nintendo) 2017年5月17日
うーん。周辺グッズまで内製化を加速するのか。こういった情報も自社発信だし、この記事自体も内製。販社を子会社化したから売るものを増やしたいんだろうけど、最近餅は餅屋の領域に踏み出しすぎだと思うなあ。 https://t.co/igGbjuG0vg
— 水ピン / 水間勇一 (@MIZUPIN) 2017年5月17日
任天堂がアクセサリーグッズを内製化、そしてメディアを通さない発表をしたことに関連するツイートです。
不勉強ながらこの水間勇一氏を初めて知りまして、ファミ通DS+Wiiの編集長をされていた方だとか。
正直、消費者側(ユーザー)の私からすれば至極好みでない意見でして、
「ゲーム会社が自社の持つ影響力を利用して何が悪い。メディアを通すよりも早く情報がユーザーに届けられて万々歳では」
と思ったわけです。
そこで、水間氏の仰る「餅屋の領域」とはどんなものかと思い、ちょっと調べて見ました。
では始まります。
ゲームメディアとは
メディア(媒体)の意味を広辞苑から引用。
【媒体】媒介するもの。伝達の媒介となる手段。メディア。
つまり、生産者(ゲーム会社)と消費者(ユーザー)間の情報伝達を担うのがメディアである。
ゲームブログは消費者による情報発信であり、一次ソース(メディア)からの引用であったり、ゲームの感想を述べているだけなのでここにおけるメディアには該当しないだろう。
※フォローするわけではないが、企業が運営していなくてもdoope! 国内外のゲーム情報総合サイトなどの素晴らしい情報サイトは存在している。私もお世話になっています。
つまり、情報伝達を事業にしている企業が私の言及するゲームメディアにあたる。
以下に、まとめていく。
ここで言及していくゲームメディアとは、Web/雑誌問わずゲームを中心に扱う専門媒体で、運営は企業の手によって行われている。その記事はゲームライターと呼ばれる専業者によって執筆されている(ゲーム好きの著名人という例もあるが)
ゲームメディア一例
現在、刊行・運営されている主要なゲームメディアを列挙する。(※アダルト美少女ゲームメディアやボードゲームメディア、子供向けゲームメディア等を除く。)
存在するゲームメディア全てを網羅しているわけではないが、ここで私が言及するゲームメディアのイメージの例として捉えて欲しい。
・ゲーム総合(雑誌)
ゲーム総合(雑誌)とはゲームレビューからゲームビジネス系まで広く網羅する総合情報ニュースを取り扱う紙媒体を指す。
- ファミ通(カドカワ株式会社)
- 電撃Playstation、電撃Nintendo(カドカワ株式会社)
- Nintendo DREAM(株式会社徳間書店)
・ゲーム総合(Web)
ゲーム総合(Web)とはソーシャル・コンシューマ問わず、ゲームレビューからゲームビジネス系まで広く網羅する総合情報ニュースを取り扱うWeb媒体を指す。
- ファミ通.com / ゲーム・エンタメ最新情報(カドカワ株式会社)
- 電撃オンライン - ゲーム・アプリ・漫画・アニメ情報サイト(カドカワ株式会社)
- 4Gamer.net ― 日本最大級の総合ゲーム情報サイト。最新ゲームのニュース,レビューはここで!(Aetas株式会社)
- ゲームの最新情報・速報・レビュー・攻略 - GAME Watch(株式会社インプレス)
- インサイド - 人生にゲームをプラスするメディア(株式会社イード)
- IGN Japan(株式会社産経デジタル)
- スマホゲーム・ゲームアプリ・TVゲーム探すなら|Gpara.com(株式会社ジーパラドットコム)
- 最新ゲーム情報をお届け!ゲーム総合情報サイト Gamer(株式会社イクセル)
・コンシューマー・PCゲーム総合
コンシューマー・PCゲーム総合とはソーシャルを除いたゲームレビューからゲームビジネス系まで広く網羅する総合情報ニュースを取り扱うWeb媒体を指す。
- Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト(株式会社イード)
- AUTOMATON | オートマトンは日本・海外のゲーム情報サイト。ニュースやレビューを発信中(株式会社アクティブゲーミングメディア)
・ソーシャルゲーム総合
ソーシャルゲーム総合とはソーシャルゲームに関する総合情報ニュースを取り扱うWeb媒体を指す。
- Social Game Info【ソーシャルゲームインフォ】(ソーシャルゲームインフォ株式会社)―ビジネス系も含む
- スマホゲームならアプリゲット(スパイシーソフト株式会社)
他多数
※ソーシャルゲーム関連のメディアは多く、回転が激しい。
「9-Bit」(スマートフォンゲームアプリ最新ニュース・レビュー・攻略情報| 9-Bit)は閉鎖が決定し、2014年に急成長中の企業としてライター募集を行っていた「みなゲー」(http://ww1.mina-game.com/)はドメインが売りに出されている。
・ゲームビジネス
ゲーム業界動向に関するニュース
- GameBusiness.jp(株式会社イード)
- GamesIndustry.biz Japan Edition(Aetas株式会社)
- 電ファミニコゲーマー | 電ファミニコゲーマー編集部がお届けする、ゲームに関する企画記事を連載しています。
収益モデル
紙媒体のゲームメディアは以前に比べて大分減った。
ゲーメストは廃刊。アルカディアは不定期刊行。この他にもゲーム雑誌 - Wikipediaの廃刊・休刊した雑誌の項を見れば今の主要3紙にまで落ち込んでしまったことは信じがたい。
ここまで減った理由として、出版業界全体の課題である書籍離れ、収益構造が書籍売上と広告収入の二本柱であり採算が釣り合わなくなったの2つがあげられるだろう。
これに対して近年、増えたWeb媒体の収益モデルはどうなっているのだろうか。
Webゲームメディアの収益モデルは一般的なWebメディアとほぼ同様である。
以下のソース
- WEBメディア収益に関するクインテットの記事(WEBメディア運営による主な”収益源”とその特徴|株式会社クインテット)
- 4Gamer.netを有するAetas株式会社による広告出稿ガイド(http://www.aetas.co.jp/contact/pdf/4Gamer_PC_ad_mediasheet.pdf)
- Gamewatchを有する株式会社インプレスによる広告媒体資料(http://ad.impress.co.jp/docs/game-watch.htm)
をもとにWebゲームメディアの収益モデル概要を纏めていく。
①広告収入
Webメディアには“広告掲載枠”というものが設定されている。
日々ネットを利用しているとバナー広告が目に入る。それと同じで、要はWeb上のバナー広告枠を広告出稿したい企業が期間限定で買い上げるのである。
2017/05/28の4Gamer.netトップページを見ると分かる。
▲2017/05/28の4Gamer.netトップページ
ゲームメディアのトップ画面を見るとデカデカと広告が目につくだろう。この枠を売っているのである。その広告掲載枠はゲームメディアによって細かく区分されている。
- 4Gamer広告掲載枠
- 4Gamer価格表
▲4Gamer.net広告出稿ガイド(http://www.aetas.co.jp/contact/pdf/4Gamer_PC_ad_mediasheet.pdf)より
- GAME Watch広告掲載枠+価格表
▲GAME watch広告媒体資料(http://ad.impress.co.jp/docs/game-watch.htm)より
つまり、サイトの背景を2週間占有するだけで200万円。
【参照:4Gamer.net―トップページロゴジャック(200万円/1ヶ月)、GAME Watch―ハイインパクト(200万円/1ヶ月)】
広告バナーに1ヶ月間出稿するだけで約140万円*1払うことになる。
【参照:4Gamer.net―ホットゲームズナウ(120万円/1ヶ月)、GAME Watch―ハイブリッド(160万円/1ヶ月)】
広告を出稿する企業は莫大な宣伝費を要することがお分かりいただけただろう。
①-2アドネットワーク
サイト内に枠を設置する点においては広告掲載枠と似ている。実際の画面をご覧いただこう。
▲2017/05/28のIGN Japanトップ画面一部スクリーンショット
Ads by Googleつまり、Google AdsenseのことであるがGoogle Adsenseは広告主から委託されて関連性の高いメディアに広告を自動掲載しているのである。
故に、IGNがここで表示されているDMMやライオットゲームズと直接的に広告契約を結んでいるわけではなくGoogle Adsenseが契約しているということだ。
アドネットワークでは、広告をクリックして初めて報酬を得られる成功報酬型が多い。媒体との関連性の高い広告が掲載される点が、アフィリエイトと異なる点である。
②タイアップ記事(コンテンツ広告)
要は広告記事のことである。
ゲームや周辺機器メーカーの企業に頼まれて特集を組み、記事誘導なども行う。
▲4Gamer.net広告出稿ガイド(http://www.aetas.co.jp/contact/pdf/4Gamer_PC_ad_mediasheet.pdf)より
私の推測であるが、“広告”のカテゴライズがなされている記事がタイアップ記事だろう。下の画像をご覧いただきたい。
▲2017/05/28の4Gamer.netトップ画面一部スクリーンショット
この画像は2017/05/28の4Gamer.netトップ画面をスクリーンショットしたものである。
ゲーマー向けPCディスプレイの記事の題に【PR】、カテゴライズに“広告”の文字が見えるだろう。
恐らくこれがタイアップ記事である。
上掲の画像を見て頂けたら分かると思うが、記事1回につき95万円以上が設定されている。
③課金
これはメディアの読者が記事に対して課金を行うことで成り立つ収益モデルだ。
著名人の記事やメールマガジンに対して購読料を払ったら読めるというのが代表例。
最近では自社に生放送媒体を構えて月額利用料を取る形(ファミ通チャンネル(ファミ通チャンネルスタッフ) - ニコニコチャンネル:ゲームなど)があり、著名人を呼んでゲーム実況をさせたりインタビューを行うといったコンテンツ内容に対して課金をするモデルも出てきている。
④商品販売
文字通り商品販売によって収益を得る。
これを行っているゲームメディアは限られ、行っているのはファミ通のファミ通販(ファミ通販|週刊ファミ通本誌とセットで楽しむセレクトショップ)や、電撃オンラインの電撃や(電撃屋 | 電撃の公式オンラインストア)などである。
このように親会社が他事業にも手を広げており、そのオンラインストアを利用している形。単体のメディアがこうしたモデルを確立するのは難しいのではないだろうか。
「餅は餅屋の領域」に踏み入るとゲームメディアにとって何がまずいのか
さて、本題に戻ろう。 餅は餅屋の意味を広辞苑から引用する。
餅は餅屋―物事にはそれぞれの専門家がある
つまり、「餅は餅屋の領域に踏み出しすぎ」という発言は言い換えると、「専門家の領分に入りすぎ」という意味であり、言葉の裏には「専門家の領分に入ってくるな」という本意が伺える。
水間氏はアクセサリグッズとメディアの内製化のツイートに絡めてこの発言をしていることから、任天堂自社発信に対して強い懸念を抱いていることが分かる。
「餅は餅屋の領域」に踏み入るとゲームメディアにとって何がまずいのであろうか。
自分なりに理由を考えてみたので述べてみたい。
①ゲームメディアの影響力低下
まずはこれだろう。コンシューマーゲームにおける三大企業、任天堂・ソニー・マイクロソフトの内、大きなウェイトを占める一角が抜け落ちるのだからゲームメディアの影響力低下は必至だ。
仮定の話だが、任天堂が自社で情報発信を本格化させた場合、任天堂のソフトやハードの情報は無論、自社第一になるだろう。
加えて、プレスリリースに対して消極的な姿勢が見られる任天堂(任天堂、E3で「大規模な」プレスカンファレンスは行わない - Nintendo、東京ゲームショウへの不参加等)のことだ。
メディアや自社が主催に関与しない発表会への参加に意義を見出せなくなった場合、メディアに自社製品を供与しない可能性も捨てきれない。
そうなると、任天堂の情報を求めるゲーマーは任天堂公式に行ってしまい、ゲームメディアへ訪れる機会が少なくなる。そして、下記のような実害が発生するのだ。
②ゲームメディアの収益低下
任天堂が情報発信を自社で進め、自社製品の情報をゲームメディアに出し渋るようになると収益低下に繋がるという根拠を以下に記していく。
4Gamer.netの広告出稿ガイド然り、Gamewatch広告媒体資料然り、PV(ページビュー)やUU(ユニークユーザー)という文字が取り分け強調されている。
PVとはサイト内のページが開かれた数。
リンクを開いて1PV、ページを戻って1PV、ページの更新を行って1PVといった具合に、読者の行動1つ1つによって開かれたページ数全てがPV数にカウントされているというわけだ。
それに対してUUとはサイトへの訪問者数。
端末・回線毎にカウントされるため、どんな行動を行おうがカウントは1UUである。
ゲームメディアにかかわらず、Webメディアはこの数を重視している。
何故ならば、PV・UU数こそが広告が目につく機会の回数に等しいからである。
しかし、ゲームメディアが任天堂の情報発信に後追いする形となるとどうなるだろうか。また、自社製品の情報をゲームメディアに出し渋るようになるとどうなるだろうか。
単純に考えると、製品の情報を一番詳細に仕入れられるのは一次ソースである任天堂ということだ。メディアの役割はメーカーの出す情報の再生産になるだけであり、相対的な価値が低下する。
すると、PV・UU数も少なくなり、広告出稿の媒体としての魅力が低下し広告主の数も少なくなる。というのが私の主張だ。
課題
ゲームメディアの存在意義
ネットの発達によって速報性は誰しもが持つようになり、速報発信としてのメディアの魅力は低下した。
であれば、向かうべきは深い評論やゲームの開発背景を探るインタビューなど、ユーザーの世界を広げるような媒体作りだろう。
メディアが氾濫するこの時代に、メディアの価値を高めるならばそのメディアでしか知り得ないようなコンテンツの向上を目指すほか無い。それこそが、広告収益向上にも繋がるだろう
ゲームメディアの広告媒体としての価値
近年では、Adblockなどの広告除去ツールが登場したことから、Web広告に対する効果性に疑問が持たれ始めている。100万円以上の費用がかかるにもかかわらず広告除去されていたら堪ったものではない。
また、あまりに広告が氾濫しすぎておりネット利用者がバナー広告を厄介な存在であるという共通認識を持ってしまったことはWeb広告の効果性が危ぶまれる部分だ。
参照:(バナー広告20年の課題 ユーザーが見る度合い測れ :日本経済新聞)
最近ではyoutube動画でゲームPRを行うメディアも存在し、今後の宣伝方法の模索に注視したい。
新たなビジネスモデルの模索
Webメディアの主収益が広告収入という点は紙媒体と何ら変わらない。新たなビジネスモデルを模索できなかった出版業界は衰退し続けている。
このままでは出版業界の二の舞いであるため、企業側からの広告収入だけでなく消費者であるゲーマーからもなんらかの収益を得られる仕組みの構築が急務だろう。
ソース
WEBメディア運営による主な”収益源”とその特徴|株式会社クインテット
http://www.aetas.co.jp/contact/pdf/4Gamer_PC_ad_mediasheet.pdf
http://ad.impress.co.jp/docs/game-watch.htm
*1:4Gamer.net―ホットゲームズナウ(120万円/1ヶ月)、GAME Watch―ハイブリッド(160万円/1ヶ月) → (120+160)/2=140