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【感想・レビュー】エースコンバット7

どうも、TRYDERです。

 

今回は2019年1月18日よりPC/PS4/XboxONEで発売された『ACE COMBAT7 SKIES UNKNOWN』の感想を書いていきます。

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よろしくお願いします。

※今回の記事はほとんど文章です。後日、スクリーンショットを追加する予定です。

エースの味をそのままに正統な進化を遂げた本作

本作のプレイフィールは今までのシリーズとあまり変化がない。そもそも『AC2』で基本システムは確立されており、『AC04』から以降のナンバリングは英雄譚的なテリングを中心としたゲームの構成となった。これは『AC04』からディレクターとして河野一聡氏が就いたのが契機であり、片渕須直氏の脚本がシリーズの方向性を定めたと言っても良いだろう。

 

レビュアーによってはこの点を謗るかもしれない。しかし、これでいい。

プレイヤーが飛来するだけで敵からは悪魔と称され、味方からは英雄と褒めそやされる。「爆撃機編隊を壊滅させたのか? たった一機で?」過大にミサイルを持っているから当然。「あの機動についていけるなんて信じられない」プレイヤーはGを感じないから当然。

 

そんなインスタントな英雄体験がしたいし、プレイヤーに対するエースパイロットの孤高な描写やら、プレイヤーが敵を撃滅させたことで生じる世界情勢の変化やら、プレイヤーを潰そうと襲い来る超兵器の数々に出会いたいのだ。

 

本作はそんな“エース”の文脈を守りつつ、リッチな表現でもってパイロットとしての体験を更なる高みへと上げた。

ブリーフィング→ハンガー→戦闘→デブリーフィング→ムービーシーンという流れはそのままに、戦闘においては『AC6』から追加されたハイGターンや『AC:AH』で追加されたフレアが今作でも採用。一度でもシリーズとプレイしたことがあればすんなり遊べる。今作の敵エースパイロットであるミハイのように、かつて空を自らの王国としていたプレイヤーなら、間違いなく満足出来る出来栄えとなっている。

 

“雲”がもたらす新たな体験

本作から追加された目玉要素は雲だ。雲の表現と雲を生かしたプレイは唯一無二。パッケージイラストや販促イメージなどで青々とした空と真白色の雲を押し出すのも納得である。

 

ビジュアルアートディレクターの糸見功輔氏によると、今作の開発前に『AC:AH』のシステム上で雲に見立た白い塊を配し、雲がもたらす効果をテストしたという。すると雲を突き抜け、眼下に広がる雲に物凄い興奮を覚えたらしい。本作ではその興奮を全プレイヤーが共有するだろう。雲に入ると水滴が画面上に広がり、雲を抜けると地上とは打って変わってダークブルーの空が広がる。

一方で雲は怖い存在だ。一度、雲の上に出ると雲と地面の距離が分からなくなって再突入に躊躇するし、雲の中では視界が取れず上か下かも分からなくなる上、ミサイルも敵に上手く誘導しない。

ゲーム上のギミックとしての機能は勿論、雲の下と上で異なる世界が広がるという、シナリオ上のテーマとも繋がる“雲”はシリーズに新たなブレイクスルーを与えたと言える。

 

ゲーム上あまり意味がない環境変化

今作では環境変化が初めて取り入れられた。戦闘機の状態異常とも言えるそれらは以下の通り。

― HUD*1が一定周期で乱れ、それに合わせて敵がロックオン出来なくなる。

アイシング ― 雲の中に長くいると機体に着氷する現象で、ストール(失速)しやすくなる。

気流 ― 風に流されて機体の操作がおぼつかなくなる。

砂嵐 ― レーダーとロックオンが一定周期で使用不能となる

正直、これらが生じるステージは固定されている上、それが楽しさに繋がっているかと言えば疑問符が残る。

一定周期でレーダーやロックオンが機能不全を起こしたところで機体の速度を落とすだけだし、ゲーム上あまり意味がない。

 

初見で「おお、すげー」と唸ることは唸るのだが、プレイしだすと何の意味があるのだろうという程度の体験に落ち着いてしまうのは残念だ。

 

 

初心者にはシビアかもしれない殲滅戦の仕様

戦闘パートは基本的に目標となる敵を倒せばクリアの流れ。ただ、その中には狭い渓谷を縫ったり、護衛対象がいたり、トンネルを潜らせたりといったシリーズ伝統の展開が発生し、ミッションバリエーションを増やしている。

 

初心者にとって、それらのバリエーションの中でもキツいかもしれないのは殲滅戦だ。殲滅戦とは決められた時間内に一定のポイントを取らなければならないという内容である。殲滅戦の一番の問題点は、エースコンバットのセオリーに不慣れな初心者には少々厳しいポイント設定と、失敗すると最初からやり直しというタイムロスを迫られる点である。

 

例えば、ミッション6では15分の中で敵の地上施設を破壊する。初心者は律儀に無線に従ってしまうあまり、獲得ポイントの低い地上目標を狙いがちだ。だが、地上目標を複数狙える対地ミサイルや精密誘導爆弾といった特殊兵装が無い限り、獲得ポイントが高く設定されている航空機の方が狙い目だし、途中にムービーが挿入されて無人機が飛来する演出があるように意図されたデザインなのだ。

 

同じようにミッション11の敵主力艦隊殲滅という殲滅戦では、主力艦隊に目が行きがちだが、今作の敵艦船は固くなった上にCIWSでこちらのミサイルを迎撃してくるので初心者は艦隊よりもプラットフォームを狙った方が攻略しやすい。プラットフォームの接合部を破壊すると、 地上目標が一掃出来るからだ。だが、こういったアナウンスも無線でちらりと漏れ出る情報のため、戦闘で手一杯の初心者は気づかないかもしれない。

 

このように、無線や敵配置からセオリーを組み立てるのはシリーズの魅力でもあるのだが、初心者にとっては10~20分という時間をわけも分からないまま浪費してしまう可能性もあるため、チェックポイントを区切るのも手だったかもしれない。

 

シリーズファンはご褒美だが、初プレイ者には敷居が高いシナリオ

※文章内には一部過去作のネタバレが含まれます。

 

エースコンバット世界はストレンジリアルと呼ばれており、シリーズにおいてほぼ同じ世界観設定*2を有している。今作では『AC04』『AC5』『AC:ZERO』といったファンの間でも特に評価の高い3作*3をプレイしているとシナリオ上で特に楽しめる。というのも今作は『AC04』の16年後かつ『AC5』の9年後であるし、今作の敵「エルジア王国」は『AC04』の敵国であった「エルジア共和国」が王政へと移行したものであるからだ。

 

今作ではとりわけ上述3作と密接に設定を共有したシナリオ作りがなされている。シリーズファンならば、このシナリオを特に楽しめるだろう。

例えば、開戦時にエルジア王国の無人機がコンテナから射出されるシーンが登場するが、その傍らにあるコンテナには『AC5』における黒幕の一つ「グランダーI.G社」のマーキングがなされておりベルカ公国の関与を察する演出がされている。また、『AC04』のミッション12「ストーンヘンジ攻略」と対になるように、今作のミッション12は「ストーンヘンジ防衛」という名であるし、こうした設定の繋ぎ合わせには枚挙に暇がない。 

 

ただ、シリーズ初プレイのゲーマーにとっては話が別だ。過去作をプレイしていないと、溢れ出るシリーズ特有の固有名詞を理解する前にシナリオは進行し、プレイヤーは「オーシア連邦」という国のエースパイロットで敵は「エルジア王国」という単純な二元論的理解に終わりがちだ。 

さて、本作のアートディレクターの菅野昌人氏は今作のテーマについて、興味深い発言をしている。

・作中に登場する軌道エレベーターのデザインについて

 

物の鏡という「(意味を)どちらに取っても構わない」というのが今作のテーマであり、その要素を取り入れるべきだとも考えました*4

また、同じくアートディレクターの糸見功輔氏はシナリオについてこう述べる

今回のストーリーは、今ある秩序が無くなったらどうなるのかを問いかけているんですよね。*5

今作は解釈と認識が大きなテーマだ。それを裏付けるように終盤では衛星が破壊され、IFF(敵味方識別装置)を失った両軍は疑心暗鬼に陥り、同士討ちを繰り広げる。このようにプレイヤーが物事をどう判断するかが問われているのだ。ただ、プレイヤーが判断する上での判断材料が作中内の描写だけでは不十分であるように感じる。

 

過去作をプレイしていないと、終盤に出てくる「ベルカ」というワードについても、ご都合主義的なシナリオ展開に思えるかもしれない。また劇中に登場するハーリング元大統領の奇異な行動についても、『AC5』で彼が国境の無い宇宙で首脳会談を行った点や、コレクターズ・エディションに付属する設定集内に収録されている短編小説を読めばある程度の理由が見えてくるが作中の説明では分かりづらい。極めつけは、最後の大オチの段階で『AC5』のキャラクターが登場するのだが、その経緯に関してもコレクターズ・エディションに付属する設定集を読まないとよく分からないものになっている。

 

こうした点において、ディープなシリーズファンにとってはナンバリングを12年待ったことへの最大のご褒美シナリオである反面、新規プレイヤーにはやや敷居が高いシナリオに思えるのは少々残念だ。

 

 

VRの出来はマスターピース。ボリューム不足なのが残念

本作のVRモードにはあのセッティングが億劫なVRヘッドセットを準備するだけの価値がある。視界を動かし、常にキャノピー外の敵機を探しながら機体を旋回させると不思議とGを感じる。これは比喩ではない。VRにおけるキーワード、クロスモーダル現象による脳の錯覚が起きているのだ。

 

空母のエレベーターから甲板に登っていく時の感情の高まりといったら凄まじいものだ。甲板では作業員があくせくと行き交い、これから発艦する自分にキリッと敬礼をしてくる。誘導員が手を振り発艦を促すと同時にアフターバーナーが炊かれ大空へと飛ぶ。まさに『トップガン』や『マクロス』で憧れた風景ではないか。

 

プレイヤーが頼りにするレーダーや弾数表示はコックピット内に表示されている。敵戦闘機を捉えながらチラチラと計器類を覗くというロールプレイは堪らない喜びだ。敵機にケツをとられた。すかさず特殊兵装QAAMに切り替え、背後の敵機を撃ち落とす。QAAMは視界に捉えた目標を追尾する兵装、つまり背後の敵でも狙えるのだ。VRの特性を生かしたこの兵器を使用するのは凄くエキサイティングだ。

 

ただ、ミッションは簡単なものではない。敵のミサイルに晒され、機体はダメージを受ける。するとコックピットの計器が炎上し始めるのだ。あからさまに危険な状態を示す赤ランプが灯り、切迫感が付きまとう。ベイルアウト(脱出)したいことこの上ない。オメガ11は何度もこんな状況に陥ったのかと思いを馳せる。

 

そんなミッションが3つばかしあり、VRモードは終わった。「もっとやりたい!」と駄々をこねたくなるほどVRモードは良くできている。DLCで追加されることを切に願う。

 

総評

シリーズのファン(私のような)にとってはこれ以上無いナンバリングタイトル。

美麗な雲の表現は空中を良い意味で制限し、地形のような概念を与えた。シリーズの新たなスタンダードを生んだとともに、とりわけ雲の表現によって他のフライトゲームには無い体験があることは間違いない。

ただ、初プレイ者にはシナリオの理解や仕様の理解上で若干のハードルがあることは否めない。 

 

 

 

*1:画面上の情報

*2:AC1やAC:AH、X2を除く

*3:海外ではこの三作はホーリートリニティと呼ばれている

*4:今作のコレクターズ・エディションに付属した冊子「ACES at WAR:A HISTORY 2019」内 P.93

*5:今作のコレクターズ・エディションに付属した冊子「ACES at WAR:A HISTORY 2019」内 P.110