Farcry5から感じた風刺に塗れたメッセージ
どうも、TRYDERです。
2ヶ月前の3月27日に発売した『Farcry5』をこの度クリアしました。
メッセージ性が強い作品だなと思った今作。僕が一体どんなメッセージを受け取ったのかを語っていきたいと思います。
尚、ネタバレが含まれることをご留意の上お読みください。
現代にコミットしたテーマ『カルト』
何故、カルトを題材にしたのか。
リードデザイナーのAndrew Holmes氏はファミ通のインタビューで、こう語った。
「この世界は危機に瀕している」とは『Farcry5』に登場するボスの一人、ジョン・シードの言。 確かにこの世界は大戦期とは異なる脅威に晒されている。身体、生活、社会的地位。現代は中世と異なり、身体の安全が担保されただけでは健康で文化的な最低限度の生活を営むことは出来ない。
ふとした出来事で世間一般が営む水準の生活から転落しかねない世の中だ。実害が無くともいつかそうなってしまう不安を抱きながら現代人は生活を送っている。それらはテロ・経済危機・災害のようなクライシスが起こる度に、水にインクを落とす如くモヤとなって心に沈殿していき、いつかは完全に黒く染めてしまうのだ。
そんな社会において、不安の堤防として心の拠り所を新興宗教に置いてしまう例は多い。『Farcry5』内に登場する敵、プロジェクト・エデンズ・ゲートもそんな典型的なカルト宗教。ニューエイジ運動やグノーシス主義を取り入れながらも、キリスト教的思想を組み込んだ歪な存在である。
現代人を風刺する
歴代『Farcry』では主人公に必ず名前があった。しかし、今作の主人公は「ルーキー」あるいは「保安官」と呼ばれる。また、キャラクターもエディット方式だ。つまり、プレイヤー自身をゲーム内に投影させようとしていることが分かる。
▲シリーズ初のエディット方式
本作ではプレイヤーが様々な手段で試される。手を変え品を変え、幻惑や洗脳を使ってプレイヤーを惑わしてくる。最初は狂信者だと思っていてもいざ敵と相対した時、一理あると思わせるような台詞を吐く。
しかも、このゲームをクリアした時、「やり方は納得出来ないがエデンズゲートの言うことは正しかった。 ベストエンディングは放置エンド*1だった」そんな感情を抱かなかっただろうか。その時点で洗脳されているのだ。
カルトに毒される第一歩は無批判に受け入れること。ゲーム内で、腸を引きずり出した死体に石を詰めて磔にかけた光景、麻薬でゾンビ化した信者を「天使」と呼ぶ光景を観ていながら、見せかけの洗脳や奇跡、偶然の出来事に惑わされてしまう。
▲こんなイカれたオブジェを作る連中の妄言が正しい筈が無いのである
ネット上の主張に晒されている現代人が、フェイクニュースに踊らされている姿はよく見受けられるが「自分の眼で見たものから判断するのが大事」だという教訓をどこか感じさせる。
赤い州の再考
『farcry』シリーズはエキゾチックな場所が選ばれる。
リードコミュニティデベロッパーMathias Ahrens氏は4Gamerのインタビューでアメリカのモンタナ州が選ばれた理由を語った。
モンタナの住民には,“Do It Yourself”の精神が根付いており,他人の助けを借りずに生きていこうという人が多いんです。アメリカの中にありつつも,アメリカとは違う場所だと感じさせる土地だったので,「ファークライ」シリーズの舞台にふさわしいと思ったんです。
モンタナ州は郷土愛が強く保守層が多い地域で有名。同様の地域性を持つアメリカ南部と共に“赤い州(共和党支持の州)”として知られる。こういった赤い州はトランプ氏当選以降注目されるようになった。泡沫と目された候補が大統領になったからである。
▲トランプライクな登場人物。ハーク・ドラブマン・シニア
差別的発言の多いトランプ氏が大統領となった今、様々な出自の人材を抱えるUbisoftという会社がこの題材を選んだことは凄く意味があると思う。
『アサシンクリード4ブラックフラッグ』『アサシンクリードオリジンズ』ディレクターのAshraf Ismail氏はアラブ系、『スプリンターセル ブラックリスト』アートディレクターのScott Lee氏はアジア系、『アサシンクリード(初代)』プロデューサーJade Raymond氏は白人女性と、Ubisoftは多様な性別や民族で構成されている。
▲『アサシンクリード』の起動画面では多様な民族・宗教を持ったスタッフで制作されていることを強調する。
アメリカの過半数が共和党支持という状況はレーガン以降根強くなってきた。Mathias Ahrens氏は「アメリカの中にありつつも,アメリカとは違う場所だと感じさせる土地」と語る。しかし、実は赤い州はアメリカらしいアメリカなのだ。銃、権利を標榜する彼らは、元々のイギリスにおける古典的自由主義そのものなのだから。
おそらくMathias Ahrens氏の発言から見るに、制作チームは思想的にリベラル寄りと考えられる。Ubiはトランプ氏を熱烈に支持した伝統的保守地域を再考するためにモンタナ州という場所を選んだのではないだろうか。
▲典型的な“赤い州”の御婦人。ゲイやリベラルへの偏見をナチュラルに語る。
アメリカを風刺する
プレイヤーに立ちはだかる使者(シード一家)はアメリカの問題点を象徴しているように思えた。アメリカの負の歴史を描いた『Bioshock infinite』のライターの一人、Andrew HoImes氏が本作のリードライターであるならば尚更そう感じる。
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▲先住民への迫害や差別といったアメリカの負を描いた『Bioshock infinite』
ジョンはシード家の末弟。幼少期に虐待を受けていたことで攻撃的な性格になり、社会への破壊衝動が激化。その感情を秘めたままロースクールを首席で卒業後、弁護士になった成功者である。カルトのPR担当及びカルト維持のための収奪者となる。
▲ジョン・シード
ジョンという得体のしれない存在はジグムント・バウマンの液状不安を想起させる。都市化の中で人々はコミュニティや地域社会との関わりを断った。生活を送る人々がどんな闇を抱えているのかを知るすべはなく、銃乱射のような事件へと繋がっていく。
そんな漠然とした隣人に対する不安が高まっている時代の不安感を体現するようなキャラクター。そして、富める者による収奪という構図も反知性主義や格差の象徴に見える。
▲ジョセフ・シードはコミュニティの希薄さを説き、人を繋ぐのは「信仰」だと語る。
フェイスは本名をレイチェル・ジェソップという。親に虐待や性暴力を受け、薬物に溺れているところをファーザーに拾われたらしい。彼女の地区では、エデンズ・ゲートが洗脳する際に用いる麻薬の栽培を行っている。
フェイスは正に麻薬問題の象徴に見える。アメリカでは現実から逃れるためにオピオイド(鎮痛剤)といった薬物に手を出す者が多く社会問題化している。規制をすればメキシコ産の薬物需要は増加する。移民増加と薬物氾濫防止を盾にメキシコ国境に壁を築こうとしたトランプ大統領だが、政府の方針と反する形で州単位では大麻合法化の動きが加速するジレンマを抱える。
▲フェイス・シード
ジェイコブはシード家の長男。米陸軍第82空挺師団の狙撃手として湾岸戦争に従軍していた。彼が弱肉強食の哲学に目覚めたのはイラクで奇襲にあった時。ミラーという隊員とともに部隊からはぐれ、200km離れた基地まで戻る過程でミラーを犠牲にし、口ぶりから推測するにミラーを食べることで生き延びた。
ジェイコブは軍隊、そして競争社会の象徴に思える。WW1からモンロー主義を改めて国際問題に積極介入し、各国に派兵してきたアメリカ。帰還兵のPTSDは問題であり『アメリカンスナイパー』のような映画でも描かれている。更にトランプ大統領就任後、世界の警察としての役割を削減していく流れであり、軍という存在は主問題の1つだ。
▲とある民家に置いてあるメモ。
第2の象徴、弱肉強食はアメリカそのもので、超格差社会のアメリカは一度脱落したら、文明人として暮らすのは難しい。国民皆保険制度が無いため風邪で数万円取られる世界。貧困者がトランプ氏の主支持層になった。
また、国レベルでも弱肉強食を強いてきた。ユニラテラリズムのもと繰り広げられたイラク戦争をはじめとした、途上国で繰り広げられる代理戦争。WW2以降、先進国主導の国際連合体制下で急発展を遂げた途上国は少数。我々のような先進国は疑問を抱くこと無く、途上国の資源と労働力を利用してきた。
▲現実の出来事を参考に、或いは風刺していると言っているようなものだ
シード家の使者それぞれに何らかの属性が付与されているように思わずにはいられない。
プレイヤーを風刺する
『Farcry5』はオープンワールド世界で暴力を用いて打開していくプレイヤーを、徹底的に糾弾する。このようなメタ的風刺は『Farcry4』のテーマでもあった。主人公は独裁者の息子で、普通にプレイすると反乱軍に加わる流れとなる。が、途中で反乱軍内の派閥争いが始まり、どちらに与しても釈然としないバッドエンディング。唯一、最上のエンディングと言えばゲーム開始直後に30分間放置することで、何事も無く墓参りをして終わるというものだった。
独裁者はゲーム冒頭で「ここで待っていろ」と言い放ちその場を一旦離れるが、プレイヤーはゲームのお決まりに従って探索を始めることで無意味な殺戮を繰り広げてしまう。プレイヤーは“お決まり”に従うという構図を逆手に取ったメタは『Bioshock』を彷彿とさせる。『Bioshock』もプレイヤーがクエストに従っていたつもりが実は、「恐縮だが、○○してくれ」と言われたら必ず実行するよう洗脳されていたという設定が主人公に与えられている。
▲「待て」とは「ゲーム開始」の合図に等しいが、そこを逆手にとった。
『Farcry5』でも、このようなプレイヤーに対する侮辱は存在する。 例えば、使者の襲撃。シード一家に歯向かうような行動をとっているとレジスタンスポイントが溜まり、一定水準に達すると強制的にストーリーパートへ移行させられる。これこそまさにオープンワールドにおける“自由の否定”だ。
▲ジェイコブは「自由だと思ったか」と罵倒してくる。使者を通じて、オープンワールド内で傍若無人に振舞うプレイヤーを風刺している。更にジェイコブが口にするキーワード「間引き」。弱者を切り捨てることをモットーにしている彼だが、ゲーム内NPCを間引いて活路を見出すプレイヤーの影がどこかちらつく。
ジェイコブの洗脳シーンも興味深い。たびたび挿入される戦闘を繰り返させることでプレイヤーはシチュエーションに慣れ、作業のように敵を倒していると唐突にストーリー上のキーパーソンが紛れている。スポーツFPSのように作業で敵を倒していくプレイヤーほど躊躇いなく殺してしまう。これも一種の揶揄だ。
▲キーキャラクター、イーライを殺害してしまう主人公。プレイヤーも洗脳されていたのだ。プラターズの『オンリー・ユー』を引用してプレイヤーを特別視するジェイコブ。プレイヤーだけがゲーム内世界を変化させられることを示唆している。
そして、最大の見せ所であるエンディング。ジョセフへの抵抗を選べば核爆弾がホープカウンティで爆発。ホープカウンティから去る選択をすれば洗脳によって仲間の保安官を皆殺しすることを匂わせる描写が挿入される。
夢オチよりもたちが悪い。プレイヤーが育んだコミュニティも何もかもを無に帰すことで、ホープカウンティでのいかなるアクションも無意味にするからだ。
▲ファーザーへの抵抗を選んだ際のエンディング。誰が核爆発を起こしたかは描写されない。
このように『Farcry5』にはゲームの構造を利用した様々な仕掛けが施されている。だが、個人的には気に入らない。一見凝ったようであるが、フェアじゃないからだ。殺戮をしなければゲームは先に進まず、ジェイコブの洗脳でイーライの存在に気づいても強制的に暗転して進められ、エンディングは覆しようがない。
プレイヤーを揶揄するような仕掛けをしておきながらそれを強いるような作り。そして何より、殺戮で進行させるゲームを発売して儲けてきた会社がこういうメッセージを入れるという齟齬が気になるのだ。
*1:ゲーム冒頭のファーザーを逮捕するシーンで5分程度何もせず放置すると、逮捕することなく物語は終わり、エンドロールが流れる