TRYDERの一週一雑

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【書籍紹介】任天堂“驚き”を生む方程式/It's The Nintendo(イッツ・ザ・ニンテンドウ)―任天堂解体新書的2冊

どうも、TRYDERです。

大作ゲームといえば最近DQ11が発売されましたが、いつもの私らしく最新作はプレイせず、予習の意味を込めてDQ1・2をバーチャルコンソールプレイしています。

 

ドラクエの魅力はやっぱり堀井先生のウィットに飛んだテキストでしょうか。

個人的にRPGは分量の多さに起因する中だるみと、ステータス管理の面倒さから、あまり食指が動かないジャンルなのですが、DQ1は初期作品かつファミコンでの動作という制約の多い中で探索・謎解き・物語といったRPGの基本要素がさっくり終えられる分量に纏まっていて遊びやすいですね。DQ2ロンダルキアとかいう大地が丸ごと消滅したら良ゲーですね^^

 

さて、今回ご紹介する本はそんなDQ1・2にも関係する任天堂を取り扱った本『任天堂“驚き”を生む方程式』と『It's The Nintendo(イッツ・ザ・ニンテンドウ)』との2冊。

任天堂 “驚き”を生む方程式It’s The NINTENDO

ファミコンが市場を席巻してから早34年。ゲームハードから撤退する企業が相次いだ1990年代後半を生き残り、未だにゲーム業界を牽引し続ける企業としての「任天堂」を知るゲーマーは決して多くありません。

 

電ファミニコゲーマーではそんな任天堂を深く理解する書籍を10冊紹介しており、これまた素晴らしい書籍群だとは思いますが、個人的にはこのリストに更に追加したい2冊として今回、紹介していきたいなと思います。 

news.denfaminicogamer.jp

では、始まります。 

 

 

任天堂について子細まで知り尽くしたゲーマーは少ない。それは任天堂の体質にも起因している。今回紹介する書籍任天堂“驚き”を生む方程式』の一節にその様子が読み取れる。

任天堂は外様に経営を語られることをよしとしない。経営を称えられることすら厭う。だから個別に取材を受けることは、これほど成功している企業であるのに極端に少ない。故にその経営を題材とした書籍も、ほとんどない。

(『任天堂“驚き”を生む方程式』プロローグ P.11)より抜粋

同書ではその理由として、経営理念や体制などは製品になんら関係せず、任天堂の想いは全てゲーム機やゲームに込めているためと言及している。とは言え、特にゲーマーにとっては生に彩りをもたらし、財布を緩ませ、時には社会をも動かす仕掛け人とはどういう実体を持つのかという興味は尽きない。その秘密を解き明かす唯一のツールは本。時に電子の世界を離れて文字の海に浸るのもいいかもしれない。

 

如何にして市場を開拓していったのかを知れるビジネス書―任天堂“驚き”を生む方程式

 

任天堂 “驚き”を生む方程式

 

任天堂“驚き”を生む方程式/2009年初版

著者:井上理

出版:日本経済新聞出版社

総ページ数:307+年譜4ページ

体系的に任天堂を知りたいならば本書をいの一番にオススメしたい。日本経済新聞出版社という名を見れば分かる通り、元々『日経ビジネス』の特集コラムだったものに取材を敢行した著者が内容を追加した増補版ビジネス書といった趣となっている。

ゲーマーはエンターテインメントの側面ばかりに気を取られがちだが、ゲームとて利潤追求のためのツール。どのような戦略・思想のもとで任天堂が製品を世に送り出してきたのかや、競合他社・ユーザーとどのように向き合ってきたのかが開発史・他社比較・経営哲学・業界概観の視点で描かれている。

 

ビジネス書と聞いて逡巡するゲーマーは多いと思う。何より自分がそうだから。

しかし、そこは天下の日経。まずは目次を見て欲しい。

【()内は自分が加えた章の概説】

【目次】

  • 第1章 ゲーム旋風と危機感(64の反省と任天堂が抱いていた危機感)
  • 第2章 DSとWii誕生秘話(DS・Wiiの誕生背景となぜ競合に差をつけられたのか)
  • 第3章 岩田と宮本、禁欲の経営(岩田聡氏・宮本茂氏の半生と社内改革)
  • 第4章 笑顔創造企業の哲学(任天堂らしさ、任天堂のゲームに対する想い)
  • 第5章 ゲーム&ウォッチに宿る原点(ゲーム&ウォッチからWiiまでの製品開発にまつわる試行錯誤)
  • 第6章 「ソフト体質」で生き残る(山内溥氏のゲームに対する考え方)
  • 第7章 花札屋から世界企業へ(山内溥氏がどのようにして任天堂を成長させたか)
  • 第8章 新たな驚きの種(任天堂が考えるゲーム業界の今後)

当然ながらゲーマーに馴染み深い題材で占められている。実際、故・山内溥社長や故・岩田聡社長、宮本茂氏といったキーマンへの取材はきっちり押さえながら冗長な部分を削ぎ落とし、要点が分かりやすいように読みやすく纏められている。

自分が何よりも気に入っているのは、データによる裏付けが充実しているところ。例えば「◯◯の面積は東京ドーム何個分」という文言と同じく「任天堂の開発費は一人あたり約3500万円、キヤノンの場合は約1200万円だ」のように説明されており、規模感を把握しやすい。更に組織図・販売台数推移・株価と営業利益などのグラフが示されることで内容の説得力が富んでいる。ここらへんは天下の一流紙である日経の記者だからこそ成せる取材力だなと感じる。

 

ビジネス書とは言え、ゲーム開発の部分が疎かにされているかと言えばそんなことはなく、適度にゲームハード開発の裏側を紹介しながら任天堂という企業史を追うという構成。正直、任天堂という企業を知りたいならこの一冊で十分だと思う。

ハード・ソフトの開発秘話の子細をもっと知りたいというのなら冒頭に紹介した電ファミニコゲーマーにある横井軍平氏や宮本茂氏関連の書籍を読んだ方がいいのかもしれないが、時代・情報の連続性という点において本書の右に出るものはなくきっちり纏められた一冊だと感じた。

 

任天堂のことを知る最初の一冊として強くオススメしたい。

 

 

N64までの任天堂経営と製品開発を網羅した一冊 ― It's The Nintendo(イッツ・ザ・ニンテンドウ)

It’s The NINTENDO

It's The Nintendo(イッツ・ザ・ニンテンドウ)/2000年初版

著者:武田亨

出版:ティーツー出版

総ページ数:302ページ

この本はFC・SFC・GBといった名ハードを作り出した開発者から、ゲーム開発の巨人「宮本茂」まで数多くのキーパーソンにインタビューを敢行したという言わば任天堂の思想書とも言える代物。初版が2000年と古く、増版等もされていないために手に入りにくいが、ニンテンドースイッチにまで連なる頑とした任天堂スピリッツを解き明かす知見に溢れていて非常に興味深い書籍だった。

 

本書はインタビュー集ということで、インタビューが行われた時系列順に掲載されている。だから、導入は『NINTENDOスペースワールド’97』の際の宮本茂氏インタビューから始まる。

自分は『NINTENDOスペースワールド』という存在を本書で知った。幕張メッセのような会場を貸し切って体験会を行ってしまうというそのイベントは企業単独開催のTGSのようなもので、イベントに対して積極的でなくなった今の任天堂とは対照的な派手さとゲーム業界の勢いを感じる。

 

話が脱線したが、本書の目次はこうだ。

【目次】

  • COUNTDOWN10 表現への扉を開いた―「NINTENDOスペースワールド'97」(宮本茂氏インタビュー)
  • COUNTDOWN9 未来への扉を開いた―「NINTENDOスペースワールド'97」(稲葉憲治氏インタビュー)
  • COUNTDOWN8 進化し続けるゲームボーイ(製造本部開発第一部部長 出石武宏氏インタビュー)
  • COUNTDOWN7 放送デジタル化と任天堂(製造本部開発第二部部長 上村雅之氏インタビュー)
  • COUNTDOWN6 拡がるNINTENDO64の未来(製造本部開発第三部部長 竹田玄洋氏インタビュー)
  • COUNTDOWN5 宮本流ゲームデザイン(情報開発本部情報開発部部長 宮本茂氏インタビュー)
  • COUNTDOWN4 管理部門からみる任天堂(広報室企画部企画課係長 稲葉憲治氏インタビュー)
  • COUNTDOWN3 これからの任天堂路線(取締役広報室室長 今西紘史氏インタビュー)
  • COUNTDOWN2 松下電器 任天堂 提携発表会
  • COUNTDOWN1 芸術家 宮本茂

 

見てもらえば分かる通り、任天堂のゲーム事業における各部署を網羅している。

尤も2005年に企業再編が行われた際、開発一部や開発二部等は廃止されていてとっくに存在しない部署であるのだが、一企業の各部署職長にインタビューを敢行する本書の試みは今考えても異常なことであり、現在もこれほどフォーカスした書籍は少ないことからも任天堂を網羅した書籍と言えると思う。

 

最初に述べた通り、本書は2000年に出版された本だ。だけれども、章を進める毎に新たな発見がある。古典が色褪せないのと同じで新しいモノは古典的エッセンスを含んでいるものだ。例えば、宮本茂氏のインタビューの一節からもニンテンドースイッチにまで受け継がれているコンセプトが伺える。

 

宮本―結果的にはいま、つないでいくことがおもしろいと思っています。今度もいろんなゲームのごく一部をGBに抜き出して、表でひとつのゲームを遊ぶっていうことを考えています。だから表で遊べる道具であるのがGBで、家で遊ぶ道具がSFからN64に変わった。さらにこのN64にしても、表で遊ぶ道具ともつながりを得るっていう構造をいろいろつくっていきます。

 (P.24 宮本的作品づくり)より抜粋

つまり、当時は外で遊ぶGB・家で遊ぶN64・発売後にコンテンツが追加可能な64DDと3つの柱の相互性を主眼においていたことが分かる。もう分かると思うが、現代では性能向上によってこれらのコンセプトが一つのハード上で実現可能となった。そう、ニンテンドースイッチだ。一つのハードで実現することで、宮本氏の述べるハード間の“つながり”が強まり、ゲーム開発においても“つながり”をより意識出来る。

 

部署が違えば出てくるエピソードも異なる。企画部稲葉氏のエピソードでは任天堂のキャラクタービジネスについて伺える一節があった。

稲葉―(前略)いままでのマリオとかスーパードンキーコングなどのキャラクターは、キャラクター性、要はキャラクターの性格を特定していないんですね。(中略)本当はキャラクターグッズのビジネスにはある程度のキャラクターの性格というものがプロフィールとして必要なんですが、それをあえてやらないというのは、キャラクターたちの未知の領域を意識した自由な発想がなくなるおそれがあるからです。やはり、キャラクターはゲームソフトをつくっていくうえで大切な資産ですからね。そのキャラクターをいろんな特性で固めてしまうことは、つぎのゲームづくりがひじょうに難しくなっていくことになります。

(P.35  任天堂のキャラクタービジネス)より抜粋

この一節ではキャラクターの扱いに関する考えが伺える。自分が想起したのは任天堂著作権に対する厳しさだ。ファンメイドの噂が立つと即座に開発中止を言い渡すし、最近では「マリカー」の名を使ってレンタルカートを運営していた会社を提訴してもいる。断っておくと一般的にファンメイドが黙認される例は少ないし、著作権の主張は当然の権利だ。だが、表出する事例が多いため著作権に厳しい会社という認識はゲーマー間では存在しているのかなと思う。

こういったキャラクターの著作権に対する任天堂の執着はこの稲葉氏の一節が何よりの理由なのだろう。利益が任天堂に入ってこないのは勿論だが、何よりも勝手にキャラ付けされることでイメージが醸成され、自社のゲーム作りに波及することを避けたいのだ。それは大変な苦労を経て生み出されたIP(知的財産)なのだから。

 

長くなってしまったが、こんな感じで、N64までの任天堂という企業がとってきた一挙手一投足の理由が説明出来るのがこの本だ。自分の場合、章を読み終える度に付箋を貼って気になったことをメモしているため本書は付箋のハリネズミと化している。

さて、ここまで褒めてきたので、敢えて欠点を述べるならインタビュアーの質問が一体何を聞きたいのか捉えづらいという点だ。口語をそのまま掲載しているため仕方ないのだろうがそれにしても、インタビュアーが知的すぎて質問をする度に多くの言葉を要してしまうきらいがある。そこに目を瞑れば、任天堂を深く知れる一冊と思うのでオススメしたい。